【ネタバレあり】『デッドプール&ウルヴァリン』のあの曲について
今回はこの映画の冒頭について、過去の記事と同様に私が勝手気ままに思ったことを書いてみたい。
※ネタバレ注意※
作品の内容に触れているため、映画鑑賞がまだの方はご注意下さい。
デッドプールの映画シリーズは、音楽の使い方が好きな映像作品のひとつに含まれる。
特に前作のオープニングで、007を彷彿させる演出に壮大なセリーヌ・ディオンの歌声が乗ることで「ここは笑っていいのか?しんみりした方がいいのか?やっぱり笑うべきか?」と鑑賞中に気持ちを振り回されたのは記憶に新しい。
そういう面でも楽しみにしていたわけだが、今回も期待以上!
というか予測してない方向から曲が来た。笑
なんと今作のオープニング曲は、*NSYNC(2000年代に人気を博し、ジャスティン・ティンバーレイクが属していたアイドルグループ )の一番売れたアルバム『No Strings Attached』からチョイスされているのだ。
タイトルのNo Strings Attachedを直訳すると「条件や制約が無い」という意味になる。
色んな問題をクリア(?)してやっとMCUに合流するよ!とも取れる題名を冠したアルバムの一曲目が『デッドプール&ウルヴァリン』のオープニングとして使われた「Bye Bye Bye」
この曲名と操り人形のような関係に別れを告げる歌詞の内容を考えれば、デッドプールの過去作を制作・配給していたFOXへのお別れソングか?と受け止めそうになるのだが、そうは単純にいかないのがデッドプールである。
その理由はこの曲が流れる場面だ。
なんと 朽ちて骨だけになったウルヴァリンを操り人形のように駆使しながら、デッドプールがTVAのミニットメンたちの息の根を止めていくなんとも血生臭い場面でこの曲が流れるのだ。
勝手に墓から掘り起こすわ、死体を利用するわで、ウルヴァリンを巻き込みながらお馴染みの破天荒な俺ちゃん節を炸裂する気満々である。
そんな悪ふざけを繰り広げることで『ローガン』でのウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)と観客が味わったあの切ない別れを台無し/帳消しにしてしまうし、「Bye Bye Bye FOX!やぁディズニー!こっちは相変わらず制約なし(No Strings Attached)で好きにやらせてもらうけど!」と言わんばかりにノリノリで新しい幕開けを告げる。
非謹慎な演出としても、デッドプール(と製作陣)の意思表示としてもこの曲を機能させてしまうのは流石である。
※これを歌っている*NSYNCのジャスティンとJCがかつてディズニーチャンネルのスターだったのも更に面白さに拍車をかける。
また、このオープニングシーンでデッドプールが踊る振り付けだが、あれは*NSYNCが実際に踊っていたそのままを再現しているので気になる方は是非チェックしてほしい。
ちなみに「Bye Bye Bye」のMVでは紐に繋がれた操り人形風な*NSYNCのメンバーが登場する。
私は、デッドプールの戦闘に利用される骨ウルヴァリンを観ながらこのMVを思い出し苦笑いしていた。笑
*NSYNC - Bye Bye Bye (Official Video) - YouTube
とにかくこの選曲には驚かされたが、もしかすると *NSYNCのファンであるブレイク・ライヴリー(ライアン・レイノルズの奥さんであり、今回レディプールとしても出演)の好みを反映させたのかもしれない。
相変わらず下品でユーモラスで破茶滅茶で、こんなオープニングで始まってしまう『デッドプール&ウルヴァリン』だが、この映画はFOXをはじめ、様々な方面へ向けた感謝とリスペクトの気持ちを目一杯詰め込んだ作品になっている。
今作でデッドプールは自らを「マーベルの神」と言っていたのは、MCU以外の過去のマーベル作品(とそれらのファン)や日陰者扱いされてしまった功労者達へ光を当てる救済者という役割を担っているからだろう。
過去があるからこそ今があるんだ!といわんばかりの温故知新で承前啓後な精神と、 今作も誰かや何かに「失敗」や「落伍」のラベルを貼らせないブレないデッドプールの姿勢に目頭が熱くなった。
【余談】
・掘り起こされたウルヴァリンの死体に向かって「ヒュー」と呼ぶデッドプールは容赦がない。笑
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に登場するあるアイテム
世界中のマーベルファンが怒涛の展開とサプライズに度肝を抜かれ、人によっては『アベンジャーズ/エンドゲーム』にも匹敵する衝撃を受けたかもしれない『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム(以下、NWH)』。
【注意】この記事は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のネタバレを含むため、映画鑑賞後に読むことをお勧めします。
ジェットコースターのように山場が点在する展開、そしてあの結末を観てピーター・パーカーに対する不憫な思いに押しつぶされそうになった。
しかし、私はとあるモノを目にした瞬間にあの結末の中にも希望を感じることが出来た。
今回は作品に登場するそんなアイテムを紹介したい。
何気なく場面に登場する重要なアイテム
ニューヨークに訪れた人やニューヨークを舞台にした映像作品を観た人は一度は目にしたであろうアイテムがある。
それがこの紙コップ
その名もAnthora(アンソラ)
通称「ニューヨーク コーヒーカップ」である。
日本に住んでいるとあまり馴染みがないものなので、今回NWHを鑑賞した際に初めて目にした方もいるだろうが
実はこれ、自由の女神やタイムズスクエアに並ぶニューヨークを象徴するアイテムと言っても過言ではないのだ。
本作でサプライズ出演しているマット・マードックことデアデビルのドラマシリーズでも何度かこのコップは登場している。
デアデビルS1の3話のカレンのデスクの上、S2の2話でパニッシャーがコーヒーを飲むシーンでコップが登場する。
アンソラは、1963年に東欧出身のレスリー・バック氏により生み出された。
(スパイダーマンがコミックに初登場した翌年にこのコップが誕生したことに、少し運命めいたものを感じてしまう。)
当時のニューヨークにあったダイナーの多くはギリシャ系移民によって経営されていた。
そこに注目したバック氏は、紙コップのベースカラーにギリシャ国旗の青色と白色を採用し、印字の字体や装飾もギリシャ風にすることで移民の郷愁を駆り立てるデザインを目指した。
この作戦が功を成し、バック氏のコップはまたたく間にニューヨークに広まり、市民に愛されるようになる。
※コップ誕生の詳しい経緯はこちらの記事・動画を参照下さい。↓
実は紙コップの名前のアンソラは、このAmphoraが聞き間違えられたのが由縁という説がある。
このコップにオレンジ色の文字でプリントされているWe are happy to serve you.という文は、直訳すると「私たちはあなたに給仕できて幸せです。」となる。
この言葉はNWHにおける様々な場面で意味を持ち、スパイダーマンとニューヨークという街の関係も表しているように思える。
ここからは、NWH終盤のドーナツ店(MJのバイト先)とピーターの新居の場面を振り返りながらコップについての私の考察を述べたい。
①1回目のコップの意味
以前のようにMJやネッドとの友情を取り戻せるかもしれない!と淡い期待を胸にドーナツ店を訪れるピーターであったが、その願いは叶うことはなく、彼らは別々の道を進むこととなる。
そんなシーンにアンソラが1回目の登場を果たす。
すべてを失ったピーターに追い打ちをかけるような悲しい別れの場面ではあるが、MJからコップが手渡されたまさにその瞬間に、ピーターが守る対象は「特定の個人」ではなく「街全体」に変わったのだと私は確信した。
(と同時に、ピーターの存在を忘れてもなお彼の背中を押すMJの存在の大きさを際立たせる演出でもあったと感じている。)
つまり、この場面でのコップに記されたWe are happy to serve youは「私たちはあなたをいつでも支えるよ!」という街からピーターへ宛てたエールを意味するのではないだろうか。
今作はミステリオによる暴露とジェイムソンの報道で、スパイダーマンに対して攻撃的な市民が目立っていた。
しかし、過去のサム・ライミ版スパイダーマンでもアメイジングスパイダーマンでもそうだったように、本作のスパイダーマンを助ける市民は(MJやネッド以外)にも現れるだろうという期待をこの場面でのコップの言葉が抱かせる。
②2回目のコップの意味
先程のドーナツ店でのやりとりの後にメイ伯母さんの墓前の場面を経て、ピーターの新居に場面は移る。
そのシーンではレゴや作りかけの新しいスパイダーマンのスーツが映り、そして再度登場する紙コップに焦点が合うカットが用意されている。
この場面でのコップの文字は、先述の街からのエールに対してのピーター&スパイダーマンからのアンサーであり「スパイダーマンは、街と市民に奉仕できることが幸せです。」という街を守っていく決意表明として受け取れる。
このように2つの場面で登場することで、コップが街とスパイダーマンの今後の相互協力関係を表すのに一役買っている。
このコップの生みの親であるレスリー・バック氏は第二次世界大戦で両親を失い、そしてホロコーストを生き延びてアメリカにやって来た移民であり、彼自身もまさにNo Way Homeな(戻る場所のない)状態であった。
そんな彼が多くの移民が暮らすニューヨークで、どんな境遇の人でもアットホームを感じられ、温かい気持ちになるWe are happy to serve you(あなたに仕えられて/尽くせて幸せです)という親しみが沸く文をコップに印字することは、彼なりの社会貢献であると同時に、新天地での自身の生活を鼓舞する意味合いがあったのではないだろうか。
再出発の象徴である街ニューヨークのヒーローとしてようやくスタートラインに立ったピーターの決意表明の役割を この「転機を彷彿させるこの紙コップ」に担わせる演出に私は唸った。
ついでに、レゴ(スターウォーズに登場するパルパティーン皇帝)が映る意味を考えるとするなら
ヒーロー同士の争いに巻き込まれたり
宇宙を股にかけた壮大な戦いに参加したり
と今までディズニー(スターウォーズを配する)のスパイダーマンとして奔走してきた過去に区切りをつけ、ついに親愛なる隣人のスパイダーマンとして地元に根を下ろしたヒーロー活動に本腰を入れていく表れとも取れる。
MCUのことだから、今後何が起こるのか予測不能なので断言はできないが。
③スパイダーマンの信念
街とスパイダーマンの関係性を表す以外にも、更にもう一つこのコップが代弁していることがある。
それは、スパイダーマンをヒーローたらしめる大事な精神だ。
アメリカという社会は、自分の得意なことで誰かの役に立つことや自分が率先してリーダーになれる得意分野を持つことを尊重し、個人が自発的に他者のために行う奉仕活動や地域貢献を大切にしている。
チャリティー活動に熱心なのもそれに拠るところが大きい。
スパイダーマン:ファー・フロム・ホームでのチャリティーのシーン
それはなぜかというと
・ひとりひとりが社会に良い影響を与えられる体験が出来る
・活動を通して自分自身と向き合いながら何かを深く学べる
・学業や就職で有利になる
など理由はさまざまではある。
しかし、人々をこれらの活動へと突き動かす最もシンプルかつ大きな要因は 「隣人愛」ではなかろうか。
※「隣人愛」
自分の家族・知人・友人だけでなく、助けを必要としている人(=隣人)が居たら、それがたとえ敵であっても手を差し伸べなさいという慈しみの精神。
「隣人を自分のように愛し・誰しも良き隣人であれ」というキリスト教の教えに起因する。
先程から何度も紹介しているコップの文に含まれるserveという単語は、単なるサービスという意味合いの「給仕」だけではなく「奉仕」という意味合いもある。
それを踏まえるとコップの文は隣人愛を体現し、奉仕に生きたメイ伯母さんの精神を表しており、彼女の墓石に刻まれた「誰かを救うとき、また他の誰かを救っている。」という教訓を思い起こさせるのだ。
コップが登場するドーナツ店とピーターの新居のシーンの間に、メイ叔母さんの墓前のシーンを挟むのはそういう意図も絡めている気がしている。
このメイ叔母さんが残した教訓(アメリカが理想とする通念と言っても過言ではない)は、スパイダーマンを親愛なる隣人たらしめる核であり、彼にしかできない地域貢献=ヒーロー活動の原動力なのだ。
冒頭でも記したように、私は悲しい気持ちに浸りそうになりながらNWHの終盤を鑑賞していた。
しかし、親愛なる隣人に相応しい『座右の銘』ともとれる文を施したこのコップを片手に新しいスパイダーマンのスーツを作り、人生をまた一から立て直そうとするピーターを見てハッとした。
寧ろこのコップに含まれている意図に気付いてからは「色んな困難が待ち受けようともピーターはきっと大丈夫!」とポジティブな応援の気持ちが芽生えていた。
今後もスパイダーマンだからこそ出来るヒーロー活動に大いに期待したい。
またスクリーンで会える日を楽しみにしているよ!スパイダーマン!
美術と観る『ワンダーウーマン』(後編)
【注意】『ワンダーウーマン』『ワンダーウーマン1984』のネタバレを含みます。
「美術と観るワンダーウーマン(前編)」では、映画に関連する絵画作品などを紹介しました。
今回は、プロダクションデザイン* という意味での美術(+衣装)を取り上げ
前回の記事で紹介した絵画の楽しみ方のような視点で『ワンダーウーマン 1984』(以下『WW84』)を中心に、劇中に登場するアイテム・衣装・人物に何らかの意味が込められていたら?と仮定しながら、私なりに各キャラクターと映画を掘り下げていきます。
* プロダクションデザインとは、建築物・大道具・小道具・装飾などを担う、映画の世界観を表現するのには欠かせない部門。
この後編では、キリスト教やギリシャ神話、ローマ神話を度々交えながら考察を記述しています。
これらは西洋に暮らす人のアイデンティティー形成や、様々な作品や文化に影響を与える要素でもあります。
うんちくや話のネタだと思って、軽い気持ちで読んで頂ければ幸いです。
プロダクションデザイナー
本題に入る前に、『WW84』の美術部門を統括するプロダクションデザイナーのアリーヌ・ボネット氏について紹介します。
過去の参加作品の面影
ボネット氏がセット装飾で参加した『ロストチルドレン』という作品があります。
この映画には、一際存在感を放つクローン人間たちの実験室が登場します。
このセットの風合いと並べられた数々のモノが醸し出す独特の不気味さやは、マル博士の毒ガス研究所に通じます。
他にも、『ワンダーウーマン 』では、ボネット氏の過去の参加作品の片鱗を感じることができます。
1918年の雰囲気や無人地帯の塹壕は、彼女がセザール賞最優秀美術デザイン賞を受賞した『ロングエンゲージメント』で培ったノウハウと技術が応用されているように思えます。
ボネット氏と美術チームの情熱と仕事ぶりが特に分かる例として、『WW84』冒頭のショッピングモールが挙げられます。
Landmark Mall, Alexandria VA ©Warner Bros. / DC Comics, Inc.
2017年に閉館された商業施設を利用して作られたモール
あらゆる資料を参照しながら、緻密にデザインを練り、各店舗のジャンルに見合った当時の商品を陳列することで、見事に完成した80年代のモールですが、ボネット氏が手掛けた店舗数はなんと65店舗(合計3フロア分)にも及びます。
モールのあまりの出来に、監督・撮影クルー・演者も撮影の合間に施設内を散策し、各自の思い出の詰まった商品などを見つけては、タイムスリップした気分を味わっていたそうです。
美術の役割
実際のものにしか出せないリアルがあると考え、手作業の工程や、美術の力を信頼するジェンキンス監督の並々ならぬこだわりや、
アリーヌ・ボネット氏の言葉“私の仕事は美を作りだすのではなく、物語を細かい点まで自分なりに語ること”(『ワンダーウーマン』特典映像から引用)から察するに、劇中には、ふとしたシーンも、そこに写るものにも、何かしらの意味が潜んでいる気がします。
パティ・ジェンキンス監督と撮影監督 ©Clay Enos / Warner Bros.
『ワンダーウーマン』『WW84』の撮影は、部門の垣根を越えた小まめな情報共有の場が設けられ、スタッフ各自が積極的に作品づくりに臨める自由な環境だったそう。
『WW84』あらすじ
1918年、アマゾン族の王女ダイアナはスティーブ・トレバーと彼の仲間たちと協力し、大きな犠牲を払いながらも軍神アレスを倒す。
それから66年の月日が流れた1984年、ダイアナはスミソニアン博物館で学芸員として勤務する傍ら密かに平和を守る活動をしていた。
ダイアナの同僚バーバラ・ミネルヴァの元に、強盗事件の鑑定依頼が飛び込み、物証として「代償と引き換えに持つ者の願いを叶える」という魔法の石ドリームストーンが送られてくる。
思いがけずドリームストーンに願い事をしたことをきっかけに、不思議な現象に見舞われるダイアナとバーバラ、そしてその石を狙う魔の手が忍び寄るのであった...
ダイアナ・プリンス/ワンダーウーマン
セッミシラに住む女性だけの部族、アマゾン族の王女。ヒッポリタと神ゼウスの子。
スティーブ・トレバーとの出会いをきっかけに、第一次世界大戦真っ只中だった人間の世界に足を踏み入れる。
不老不死(長寿?)のため、本作の舞台である80年代でも変わらぬ姿で生き続けている。
ギリシャ神話の女神
原作者の伝記映画でも言及されていたり、コミックでも通じる部分があることから、ワンダーウーマンには、ギリシャ神話の女神アテナの要素が少なからず盛り込まれていると考えられます。(コミックに同名のキャラクターが存在するので、ややこしいですが)
『WW84』の場合は特に、その影響を強く感じました。詳しくは、下記のアイテムやスティーブ・トレバーの項目で述べたいと思います。
《アテナ》
ギリシャ神話における戦い(正義、勇気)と知恵の女神。
鎧を身に纏った完全武装の状態で父ゼウスの頭から飛び出してきたというびっくり誕生秘話を持つ。
絵画では勇ましく描かれることが多く、王族や為政者の肖像画のモチーフとして人気があった。
レンブラント・ファン・レイン 『パラス・アテナ』(1664年〜1665年)
グルベンキアン美術館所蔵
女神アテナは金色の鎧を纏った姿で描写されることが多い。
戦闘で活躍したアイテム
『WW84』のダイアナは、ドリームストーンでスティーブを生き返らせた代償にパワーを失いました。
戦闘の場面では、弱体化した彼女の代わりに、お馴染みのアイテムたちが活躍します。
実はそれらには、武器以外の意味がある気がしたので、私なりの考察を紹介します。
《ヘスティアの縄》
『WW84』で大活躍したヘスティアの縄。
縄に捕らわれた相手に真実を吐かせたり、マインドコントロールを解く作用もある。また、ときとして真実を伝達する働きもする。
炉=囲炉裏は家の中心に位置し、生活に欠かせない重要なものであることから、
家庭や家庭の延長として考えられる国(世界)を守護する女神と称えられました。
孤児たちや困窮した人々の保護者でもあり、平穏を愛する優しい女神とされます。
ヘスティアは、人間の生活にとって欠かせない炉の火を絶やさないため、人間のそばを離れなかったと考えられます。
これがこの女神が、神話に頻繁に登場しない=ギリシャ神話では目立たない神だとされる由縁でもあります。
© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.
人間に寄り添い、人知れぬ状況で世界を守るダイアナは、女神ヘスティアと立場が重なる。
『WW84』の劇中でヘスティアの縄は、人知を超えた力が備わったものだと言及されます。
争いごとから縁遠いヘスティアによって作られたと考えると、攻撃的な武器というよりも、人を守るためのものだと考える方がしっくりきます。
そんな意味合いを含んでいそうなこの縄を、前作より各段に幅広いバリエーションで使いこなすダイアナの姿は、彼女が世界を守る者として、模索しながら成長していく様子を表しているようです。
《ティアラ》
星を模したこのティアラは、ダイアナのロールモデルである伯母アンティオペの形見。戦闘時はブーメランのように使用できる。
© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.
自分を見失ってはいけない、嘘からは真の英雄は生まれない、とダイアナを律するアンティオペ
真実は、時として残酷で無慈悲でありながらも、必ずどこかに希望も帯同しているはずです。
それを見出して奮闘する者には「真実は味方になり得る」という真理、そして最強の戦士たるものは真実の番人であれといわんばかりのアンティオペの思いがティアラには詰まっているのではないでしょうか。
◇アトリビュートの視点で見ると...
星のティアラ(冠)は、聖母マリアにとって重要なアイテムとされる。
これには、愛・喜び・平和・寛容・慈悲・善良・忍耐・柔和・誠実・慎み・節制・貞潔という意味がある。
フランシスコ・デ・スルバラン『無原罪の御宿り』1630年~1635年 プラド美術館所蔵
星のティアラを冠した聖母マリア
《ゴールドアーマー》
アマゾンの誇り高い戦士アステリアがアマゾン族をセミッシラへ逃す際に着用していた鎧。
アマゾン達の鎧を集めて作られたのがこのアーマー。
◇アトリビュート・寓意の視点で見ると...
金色⇒世の光、神の色を象徴する。
鷲⇒勝利や再生、正義を表す。ゼウスの分身と信じられている。
アステカ文明などでは、「鷲」はネコ科の動物と敵対すると考えれ、終盤のチーター戦にはうってつけの装備と言えます。(ちなみに、映画でのダイアナをはじめ、アマゾン族のアーマーは、アステカの民族衣装とアールデコをモチーフとしています。)
© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.
元はコミック「キングダムカム」でアレックス・ロスがデザインしたアーマーを基に実写化
世界を救うため、スティーブに別れを告げたダイアナは、マックスを止めるためにゴールドアーマーを装備して飛び立ちます。
アマゾン達の鎧を集めて作られたこのアーマーを纏って出陣するということは、愛しい人や同胞・救いを求める人々の思いをダイアナが一身に背負っているとも受け取れ、
故郷で崇められていた英雄アステリアのように、もしくは神のように、ダイアナが希望の存在に進化したのだと思わせます。
ダイアナを象徴する動物
スミソニアン博物館内でダイアナとバーバラが初対面するシーンで、どうしても私の興味を引くものがあります。
それは、ダイアナの後ろに佇む孔雀の剥製です。
しかも動物の標本としてではなく、神物的なジャンルのひとつとして展示されているのです。
◇アトリビュート・寓意の視点で見ると...
孔雀は神の使い・死んだ後も肉が腐らないと信じられたことから、不死のシンボルとされる。
それはキリストの復活の象徴でもあります。
ダイアナの不老不死(長寿?)という特徴・文明や技術が発達しても、相変わらず争いの絶えない人間の世界にとってのワンダーウーマンの存在意義の普遍性を際立たせるポイントとして、この剥製が配置されているように思えました。
また、死者の復活を予兆するとされる孔雀の登場は、スティーブが蘇ることを示唆しているとも取れます。
ダイアナが担う役割
アクションやバトルを期待した人からすると、『WW84』は少々物足りなかったかもしれません。
しかし、今回のストーリーは、武力で解決することが全てではないとするワンダーウーマン本来のキャラクターとしての立ち位置を再認識させ、彼女の大事な使命である「人間を守る」ということに立ち返っており、その面では評価に値すると思います。
© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.
強盗と対峙した際もはじめは彼らを諭し、武力行使は最終手段としていた
ワンダーウーマンは単にスーパーパワーがあるから強いのではなく、苦難にぶつかってもめげない精神・信じる心・他者にゆだねる勇気を持っているからこそ強いのだと改めて感じました。
スティーブ・トレバー
元アメリカ陸軍パイロットで、第一次世界大戦ではイギリス軍諜報部でスパイとして活動。
毒ガスを積んだ飛行機の爆撃を防ぐため、自ら飛行機もろとも爆破し死亡した。
『WW84』では、ダイアナが人の願いを叶えるドリームストーンという石に「トレバーを生き返らせたい」と願った結果、彼の魂がとある男性に憑依することで復活する。
スティーブを表すアイテム
《時計》
「苦境に面したときの行動で人間の真価は決まる」というスティーブの父の教えを思い出させるアイテム。今作ではスティーブの形見として登場する。
◇寓意の視点で見ると...
時計は節制を意味し、正しい道へ導くものとされる。
いつの時代も、ダイアナを正しい道に導く手助けをする善良な人間としてのスティーブ。それを象徴するのがこの時計だと言えます。
(以前、セミッシラの泉で怪我を治癒していたスティーブが、あなたは標準的な人間なのか?とダイアナに質問されます。この質問にスティーブは「それ以上」と返答していました。これは状況的に笑いをとっているだけでなく、善人として標準以上なスティーブの本質が、彼の意図せぬ形で表れた瞬間だと思います。)
《スニーカー》
80年代ファッションショーを繰り広げるコミカルなシーンで、トレバーのお気に入りアイテムとして取り上げられるナイキのスニーカー。
Nike Classic Cortez Premium QS®
ご存じの方もいるでしょうが、
ナイキというブランドの名前は、ギリシャ神話の女神ニーケーが由来になっています。
ニーケーは勝利を司る神で、アテナにとっては欠かせない随神とされます。
オーストリア国会議事堂前のアテナ像 ©Dennis Jarvis
勝利をもたらす守護天使のようにアテナの右手に乗るニーケー
アテナ=ダイアナを正義へ導くニーケーであり、頼もしいパートナーとしてのスティーブをこのスニーカーを通して強調しているのではないでしょうか。
動物と食べ物が意味すること
《魚》
自分の魂を宿した男性の自宅で、復活してからダイアナに再会するまでの経緯を説明するスティーブ。
その後ろには魚の入った水槽がある。
英語にはlike a fish out of waterというイディオムがあります。
直訳すると水から出た魚ですが、場にそぐわない人という意味で使われます。
この状況のスティーブはまるで、水槽から出てきた魚のようであり、この世にそぐわない存在だと示唆しているようです。
スティーブのこの世ならざる者という立場は、次に紹介する食べ物でも強調されている気がします。
《ポップターツ》
スティーブがベッドで頬張っていた食べ物。
パンとクラッカーの中間のような歯応えのある生地に甘いフィリングが入っており、外側にもフロスティングがかかった、スナック兼アメリカの朝食定番メニュー。
個人的にはシリアルと人気を二分している印象がある。(特に子供に人気)
Pop-Tarts®︎
種類は20以上にものぼる。
稀に「なぜ商品化したの?」と疑問を抱きたくなる風変わりな味も発売されている。
この食べ物の名前にあるタルト(tart)は、キリストの復活祭で食べられるメニューでもあります。
また、キリストが最後の晩餐で食したと伝えられるマッツァー(クラッカーのようなパン)と同じルーツを持っている食べ物でもあります。
この2つの意味を考慮すると、スティーブが美味しそうにポップターツを食す描写は、彼自身が復活の喜びに浸っているようでもあり、この世での最後の食事をしているように見えます。
※ 魚やパンは、キリスト教にまつわる要素であり、スティーブの自己犠牲の精神を仄めかしているとも捉えられます。
『WW84』のスティーブの立ち位置は前作から決まっていた?
Wonder Woman(2017) ©Warner Bros. / DC Comics, Inc.
ワンダーウーマン達の後ろには、兵士に扮したザック・スナイダーやDC映画専属の写真家クレイ・イーノスが背後に映り込んでいる。
『バットマンvsスーパーマン』でワンダーウーマンの印象を強烈にしたこの写真は、第一次世界大戦当時の技術である湿板写真を実際に用いて撮影されました。
被写体は、撮影の瞬間はしばらく動いてはいけないのですが、クリス・パインが少し動いてしまった結果、彼が演じるスティーブがぼんやりとした印象の写真が出来上がりました。
しかし、ジェンキンス監督は、このブレて写っているスティーブが霊のような雰囲気があってロマンティックであり、伝説の人物の様相が出ていて良い!としてこの写真を採用しました。
一作目の時点で、監督はトレバーに霊=守護霊的ポジションを担わせる意図があったのかもしれません。
永遠の存在、スティーブ・トレバー
スティーブは、すべての事象には必然性と意味があること、大切な誰かの思いや魂はいつもそばにいてくれること、そしてとんでもないこの世界でさえも素晴らしいのだとダイアナに伝え、彼女を表層的な孤独から解放する重要な役割を担っていました。
(『ワンダーウーマン』冒頭のナレーションを思い出してみると、スティーブの意志は現在もダイアナに大事に受け継がれていることが伺えます。)
©Warner Bros. / DC Comics, Inc.
劇中で飛行機を見かけるたび、今までも、これからもスティーブは大空から見守ってくれているだろうという想いが込み上げます。
◇余談◇
私の勝手な憶測ですが、ジェンキンス監督は、戦闘中に亡くなってしまった自身の父(空軍パイロット)をスティーブと重ねているのではないでしょうか。愛する人を失う悲しみ、多大なる喪失感と葛藤は、ダイアナだけでなく監督自身も経験してきたのかもしれません。
ジェンキンス監督は、この時期(7歳の頃)にリチャード・ドナー監督の『スーパーマン』やリンダ・カーター演じるワンダーウーマンに夢中になっていたとインタビューで答えていたのを記憶しています。
計り知れない悲劇に見舞われたであろう幼い彼女を、これらの作品が少なからず癒していたのではないだろうか?ヒーローが現実にもたらす影響と力をこのとき知ったのではないだろうか?と考えてしまいます。
マックスウェル・ロード
テレビでお馴染みのビジネスマンとして世間では認知されている。
しかし、表向きの華やかさとは打って変わり、彼が経営する投資会社は殆ど破綻していて、出資者からは詐欺師扱いされる。
紆余曲折を経て、手に入れたドリームストーンに「石そのものになりたい」と願い、特殊なパワーを得たマックスは、人々から願いを引き出しながらその対価として己の欲望を実現させていく。
マックスのモデル
マックスの衣装デザインは、『ウォール街』(1985年)のゴードン・ゲッコーが手本にされているそうです。
出世欲の強い若手証券マンのバド・フォックス(写真中央)が、大富豪ゴードン・ゲッコー(写真左)との出会いをきっかけに金融犯罪に手を染めていくサスペンス
マックスの見た目や振る舞い方は、「強欲は正しい」と考え他者を利用しながら傲慢に生きるゲッコーに通じます。
しかし、”夢見がちで欲に翻弄されるも、最終的には家族の絆で目を覚ます”という共通点があることから、実際のマックスの中身はゲッコーに憧れるバド・フォックスに近いのではないでしょうか。
マックスを動かすもの
《ドリームストーン/シトリン》
触れた者の願いを一つ叶えるが、それと引き換えに、願い事をした人の大切なものを奪う力を持つ。
この石を作ったとされる神の中に、DCコミックスに登場する欺瞞の君主(Duke of Deception)やドロスの名前が挙がっている。
◇寓意の視点で見ると...
宝石は富の虚栄とされる。
ドリームストーンの表向きの顔であるシトリン(商売繁盛、富、偽物を意味する)は、
“誠実・無垢”という意味を持つ、アメジストや水晶などに人の手を加えることで出来上がります。この石が生まれる過程は、他者や世間の目という外的な価値観(人の手)に翻弄されてきたマックスの人生を彷彿させます。
シトリンを器に、邪悪な力を宿したドリームストーン。それと一体化したマックスは、過剰な欲と虚栄に蝕まれた不健全な思想の象徴とも言えます。
《羊》
ドリームストーンの力で暴走するにつれ、寂れていたマックスのオフィスの装飾は、どんどん華美で邪悪な様相になっていきます。
ただ、そんな状況でも、最初から変わらず置かれているものがありました。それは羊の頭蓋骨です。
◇アトリビュート・寓意の視点で見ると...
羊⇒受難、迷える人、生贄
骨⇒虚無
世界を支配しようと目論むマックスは、見方を変えれば、現代社会の病的かつ尽きることのない欲に消費される生贄でもあります。
幼少期の虐待や、移民という風当たりの強い境遇から生まれた自己顕示欲は、次第に歪みはじめ、とんでもない過ちを引き起こすことになりました。
しかし、本当の彼は助けを求める人なのだと、羊の骨を見て確信しました。
(初めてこの骨が視界に入ったときは、ベタに「罪人」や「悪魔」の象徴である山羊のものだと思っていました。)
《アリスタ》
マックス・ロードの愛する息子。
父の軌道に乗らないビジネスや、調子の良い嘘に薄々気づいてはいるが、それでも彼を慕い、いつも一緒に居たいと思っている。
世界を滅亡しかねなかったマックスが正気を取り戻すきっかけとなる存在。
© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.
両親の離婚で、日々寂しい思いをしていそうなアリスタ
奇しくも、この少年の "アリスタ"という名前 は、ギリシャ語の「人(男)を守るもの」という意味を持つアレクサンドロスが英語化したものです。
欲に目が眩み、世界中の人を巻き込んで身を滅ぼす寸前だった父・マックスの目を覚まし、「どんな人にでも、愛して認めてくれる存在は居る」と気付かせてくれたアリスタは、その名の由来の通りマックスにとってヒーローだと思います。
哀れな神様ごっこ
マックスの生い立ちと境遇から来る反動は、嘘の上塗りという処世術に形を変え、「力を誇示したい・人から必要とされたい」という欲を膨らませていきます。
その表れとして、彼の偽名が挙げられます。
実は、マックスの本来の苗字は、ロレンザーノだと明かされます。
これは映画独自の設定ですが、よりにもよってロード(Lord=神)という仰々しい名前を偽名に選ぶあたり、彼の病んだ自己顕示欲を如実に示している例だと思いました。
人々から崇められる究極の存在である神。
それになろうとするマックスの様子は、名前以外にも、渋滞を切り抜けるためタクシー運転手にモーセの十戒の真似事をさせたり、オフィスの装飾が禍々しい神殿風のデコレーション* に変化していたことからも窺えます。
マックスは、真実から目を逸らす人間の驕りと弱さを体現したキャラクターではあったものの、
自分が幼少期に与えられなかった関心や愛を、自身の子であるアリスタに注ごうとする姿勢からは、彼の本質にある善の部分や人間が持つ希望を感じられました。
人間の嫌な部分を表現しつつ、何とも憎みきれない役を演じたペドロ・パスカルは見事なものです。
* 華美なオフィスのデコレーションについて
確認が十分ではないので、断言は出来ませんが、ドリームストーンが滅亡に追いやったとされる各文明(その亡骸)を匂わせるような置物が多い気がしました。
例)カルタゴの象部隊を彷彿させるかのような複数のゾウの置物、クシュ文明の神殿に鎮座するアモンのような置物、ローマの神殿のようなオブジェ、ジビルチャルトゥンで神格として称えられる豹を思わせる毛皮などなど
バーバラ・ミネルヴァ
優しく思いやりがあり、仕事においても優秀だが、本人は自身のことをドジでイケていない人間だと思っている。
暴漢から救ってくれたダイアナを見て、ドリームストーンに「ダイアナのようになりたい」と願うが徐々にバーバラの行動はエスカレートし、チーターへと変貌していく。
本来のバーバラ
《ネコ》
バーバラの周りには、常にネコの要素が散りばめられており、彼女の変化を示すバロメーターとして機能しているようにも思えます。
ドリームストーンに願い事をする前後のバーバラを振り返りながら、これらがどういう意味を含んでいるのか考察してみます。
◇アトリビュート・寓意の視点で見ると...
ネコ は怠惰、悪魔・魔女の使いなど悪い意味で捉えられる一方で、自由や神聖の象徴とも考えられる。相反する意味を背負った動物。
レオナルド・ダ・ヴィンチ《猫のいる聖母子の素描》1478年~1481年 大英博物館所蔵
当時は忌み嫌われていた猫だが、猫好きのダヴィンチが聖母子と猫を一緒に描いたことがきっかけで、聖なる動物として捉えらるようになったという説もある。
願い事をする前:
ネコ科の動物の標本やネコの要素に関連したものに囲まれるバーバラ
この時点のバーバラは、捕食者に狙われる弱者と見せかけて、本当の自分をさらけ出せない臆病な子猫のように私の目には映りました。
バーバラが描く理想の姿=強く逞しく自由に生きたいという憧れを、彼女を取り囲むかのように配置されたネコ科動物の標本や、レオパード柄のヒールを履いたダイアナで表しているのではないでしょうか。
© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.
本当に着たい服装をスカートで隠してることからも、バーバラは猫を被っているように見える
願い事をした後:
生きているような標本ではなく、骨だけになったネコ科動物の標本がよく映りこむようになり、同時に毛皮や動物のプリントを纏いだすバーバラ
◇アトリビュート・寓意の視点で見ると...
骨⇒虚無、死
毛皮⇒力の象徴
これらはバーバラが狩る側へと転向した合図であり、捕食者としての力を誇示する役割を担っているのではないでしょうか。
その一方で、彼女本来の良さや人間らしさが徐々に死に始めている印象を受けます。
© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.
よっぽどなこだわりがない限り、真夏の7月にわざわざ毛皮を着ないのでは...?
《鏡》
ドリームストーンに願い事をして以降、鏡を見るバーバラの姿が何度か出てきます。
◇アトリビュート・寓意の視点で見ると...
鏡は傲慢、真実を映し出す象徴
©Warner Bros. / DC Comics, Inc.
どことなく、『バットマン リターンズ』のセリーナを彷彿させるバーバラ
ドリームストーンに願い事をした後に「鏡」というモチーフを登場させるのは、バーバラの外見的な変化に注目させるのはもちろんのこと、
バーバラの中にもともと眠っていた、大胆で奔放な一面が解放されたことや、外部的な要因で手に入れたパワーと自信を自分のものだと錯覚して増長する傲慢さを映し出すアイテムのようにも思えます。
Wonder Woman #6 ©️DC comics, Inc.
ダイアナとの関係性
バーバラ/チーターはワンダーウーマンにとって宿敵の立場でもあり、不思議な縁で結ばれた表裏一体のような存在でもあります。
《女神の名》
偶然にもバーバラは、ミネルヴァというローマ神話におけるアテナの別名を名字に持っています。
これは、彼女がもう一人のダイアナ、あるいは対になる存在なのではないか?という想像を膨らませる要素のひとつです。
更に面白いことに
一方のダイアナ(Diana)の名前の由来を遡ると、ローマ神話の月の女神ディアナにたどり着きます。(ギリシャ神話のアルテミスに該当)
ディアナは狩猟を司り、化身がネコであること*、そして人間嫌いで気性が激しい性格から、ダイアナよりもヴィランとしてのバーバラを表す名として相応しいと言えます。
* エジプトのバステト神がギリシャ・ローマに移り、ディアナに変化したという説がある。
ジャン=マルク・ナティエ 『ディアナに扮した女性の肖像』1752年
クリーヴランド美術館所蔵
高潔な神とされる傍ら、人間不信で残忍な側面もある女神ディアナ。
魔女に崇拝される存在とも考えられている。
互いが互いの名前を表すという不思議な関係にある二人には、何らかの宿運が介在しているように思えます。
ちなみに、原作者ウィリアム・マーストン教授の妻たちがワンダーウーマンのモデルとされています。
また、その宿敵であるチーターの着想も彼女らから得ていると思われます。
『マーストン教授の秘密』(2017年)
©Boxspring Entertainment, Stage 6 Films, Topple Productions.
ワンダーウーマン原作者のマーストン教授の伝記映画
※写真左から
マーストン教授(ルーク・エヴァンス)
ワンダーウーマンのようなボンテージ姿のオリーヴ(ベラ・ヒースコート)
チーターを思わせるコートを着た妻エリザベス(レベッカ・ホール)
自ら決めた限界
セリフや振る舞いの端々から察するに、
本質を理解せぬまま、規範やステレオタイプに抑え込むバーバラは、間違った認識でなんでも決めつけてしまう人だということが分かります。
例)ダイアナとの初対面時、宝石鑑定のシーン、ランチの様子など
その見当違いっぷりは、本来の愛すべき自分の長所を自らの弱点とみなし、自身を蔑ろにする原因でもあります。
© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.
ドリームストーンに願い事をしなくても、彼女にしかない魅力やパワーがバーバラにはある。
ない物ねだりな性格が彼女の暴走のきっかけであるとも言える。
最初に「ダイアナのようになりたい」と願った時点のバーバラは、ダイアナと対等、もしくはそれ以上のパワーを持っていたかもしれません。
しかし、その後にマックスの力でチーターへと変貌を遂げたバーバラは、私個人の目には、とりたてて強化されたようには思えませんでした。
なぜなら、石の力で増幅した怒りと、計り知れない驚異(ワンダー)のパワーを「捕食者の頂点」という人間が想像し得る範囲内に抑え込んでしまったように思えて、ここでも彼女の見当違いが足枷になった印象を受けたからです。
© Bruce Timm, Ty Templeton, DC Comics,Inc.
生きとし生けるものは、調和をとりながら互いを支えあって生きている、と考えるアマゾン族のダイアナからしてみれば、「捕食者の頂点」という概念は、人間が勝手に作り出した概念だと言えるのでは?
自分の問題や状況を顧みず、都合の悪いことから目を逸らすバーバラは、脆く不憫であり、『WW84』の中では、良くも悪くも一番人間らしさを持ったキャラクターだと思います。
もし、ダイアナが重要な局面で真実を拒んだらどうなっていただろうか?という疑問への答えをバーバラが体現していた気がします。
バーバラの最初の願い事が取り消されたかどうかは明かされておらず、もしかすると、強靭なパワーは彼女の中に残ったままかもしれないので今後の動向が気になります。
コミックでは、利害が一致すれば、チーターはダイアナに力を貸すこともあるので、いつか映画でも共闘してくれないものか…と願うばかりです。
…キャットウーマン然り、やはりネコは気まぐれなのでしょうか。
アステリアと星
《アステリア》
希望と真実の象徴であり、ゴールドアーマーを着るに相応しい戦士であった。
人間によるアマゾン族の隷属解放のために戦い、同胞をセミッシラに逃がすべく、人間の世界にひとりとどまり、身を呈して追手を足止めした。
アステリアとは...
名前は、星のごとく輝くおんな・流れ星を意味する。
アステリアは、Justice(正義)の語源であるユースティティアと同一視される。
『ジャスティス・リーグ』のロンドン中央刑事裁判所のシーン
©Warner Bros. / DC Comics, Inc.
ダイアナが乗っているのは、実はアステリア(ユースティティア)の像である。
アステリアという映画オリジナルキャラクターを演じたリンダ・カーターは、元祖実写版ワンダーウーマン*と呼ぶにふさわしい俳優であり、彼女が主演を務めたテレビドラマシリーズは、当時人気を博していました。(*実写版ワンダーウーマンは彼女で3人目ですが)
そして、幼少期のパティ・ジェンキンス監督がスーパーヒーローに憧れるきっかけとなった人物でもあります。
©️Wonder woman / ABC, CBS / DC Comics, Inc.
1975年から1979年にかけて放送されたテレビドラマシリーズでワンダーウーマンを演じたリンダ・カーター
近年ではCWスーパーガールに大統領役で出演したり、『ワンダーウーマン』(2017年)公開時には宣伝CMにも登場していたため、映画本編にも登場するのではないか?と期待していました。(このときはあいにく実現しませんでしたが)
今回ついに満を持して、リンダ・カーターが演じるに相応しいアステリアという役で登場したのは本当に感激でした。
アマゾン族をセミッシラに逃がす使命を果たしたアステリアはもしかすると、人間の世界でワンダーウーマンとして平和の維持に努めていた(実質先代ワンダーウーマン)と考えても面白いのではないでしょうか。
《星》
『WW84』の本編は、赤い星型の風船が空に浮かんでいき、そのあとに空を飛ぶワンダーウーマンのカットに切り替わって幕を閉じます。
◇アトリビュート・寓意の視点で見ると...
星は慈愛、人を導く象徴。古代では、空に輝く星は神だと考えられていた。
*星はワンダーウーマンシンボルでもある。
©Warner Bros. / DC Comics, Inc.
空に浮かんでいく風船を見上げるダイアナ。
前作の最後とは違い、彼女の表情はとても輝いている。
「星のごとく輝くおんな」というアステリアの名を継ぐかのごとく、輝かしく宙に舞うダイアナは、世界を愛と真実と正義で大きく包み込む存在になろうと決心し、星のように人間の歩む道を照らす希望の光へと進化したのでしょう。
おまけ:神の片鱗
《説法するおじさん》
マックスの暴走で、内戦状態に陥りそうなホワイトハウス周辺のシーン。
自分の判断に迷い、憔悴するダイアナの目の前に、説法を説くおじさんが映る。
“「大患難」だ。終わりの日が来るぞ。見えるか己の罪深さ、己の強欲が。(『WW84』より引用)”という説法の言葉はまるで、おじさんを通して父ゼウスがダイアナに語りかけているようです。
《雷》
トレバーと別れた後に、空の雲行きが怪しくなり、雷が光りだす。
◇アトリビュート・寓意の視点で見ると...
雷はゼウスのシンボル。
コミックでは、ワンダーウーマンは雷を発生させる設定もある。
悲しみにくれている場合ではないぞ!と言わんばかりに絶妙なタイミングで、ダイアナを導くように落ちる雷は、父ゼウスの片鱗を感じられます。
Wonder Woman (2017) ©️Houston Sharp / Warner Bros. / DC Comics, Inc.
雷霆で軍神アレスを退けるゼウス
(ゼウスは、この戦いで息絶えたとされる)
まとめ
『WW84』で街を散策するダイアナが放った「すべてはアート」という言葉があります。
これは、美術品に対してはもちろん、劇中の何気ないもの、そして世の中すべてのことに当てはまるようにも思えます。
また、この言葉を鵜呑みにしたスティーブがただのゴミ箱をまじまじと見つめる様子は、一見愛らしく少々滑稽です。
これは、表層や固定概念に縛られずに本質を捉えることや、世の中に美しさを見出そうとする真摯な人の姿を映し出しているようで、個人的には印象深いシーンです。
Wonder Woman 1984 ©️ Warner Bros. Entertainment Inc. / DC Comics, Inc
ゴミ箱を見つめるスティーブ
(ロケ地である「ハーシュホーン博物館と彫刻の庭」は、リノベーションされることが決まっている為、この建物の姿を映像で観られるのは、この映画が最後だと思われる。)
『WW84』の感想
映画の締めくくりに、Lost and foundという曲が流れます。
このタイトルのLostには、失う・負ける・迷うという意味があるので、何重にも意味が込められているのではないでしょうか。
タイトルをそのまま訳せば、失って見つける/落とし物(の預かり所)になります。
人生には何かを失ったり、打ち負かされたり、迷いそうになる局面が訪れることもあるでしょう。
一方で、その経験があるからこそ見えてくるものもあるのだと『WW84』が一番伝えようとしているメッセージをこの曲が際立たせていたと思います。
『WW84』は、現実の無常さも希望も同時に味わえる、なんともいえない感慨深さを与えてくれます。
どんなときでも、諦めない心・色んな事物に真摯に向き合い、美しさを見出す目を養って生きたいと思いました。
ワンダーウーマンとは?
『ワンダーウーマン』に続き『WW84』にも、ダイアナが他者からワンダーウーマンと呼ばれる描写はありません。
このワードは、特定の一人を指すだけでなく、ダイアナを支えた全ての人が冠するに値する名前であると考えます。
これは、現実でも言えることであり、ワンダーウーマンに憧れていた7歳の頃の自分を忘れず「ワンダーウーマンを作り上げた様々な人達に敬意と称賛を表現したい」と挑んだ監督、作品作りに関わったすべての人、そして、この映画自体がワンダーウーマンだと私は思います。
©️ Clay Enos , Warner Bros. Entertainment Inc. / DC Comics, Inc
『WW84』撮影中の一コマ
左から、パティ・ジェンキンス監督、ガル・ガドット、ペドロ・パスカル、クリステン・ウィグ
最後に、私が『WW84』を観て思い浮かべた絵画作品を紹介してこの記事を終えたいと思います。
武装した女神アテナ(ミネルヴァ)が悪徳を撃退する様子を描いた一枚
アンドレア・マンテーニャ『徳の勝利』1497年~1504年
ルーヴル美術館所蔵
女神アテナ(ミネルヴァ)が、キューピッドや女神ディアナを味方につけて、肉体的な愛に固執する「不徳」やミミズクの顔の天使が象徴する「欺瞞」、沼に集まる「無知」「貪欲」などを追い払っています。(空に浮かぶ3人は、「正義」「勇気」「節制」のアレゴリーとされます。)
雲の上から美徳が見守るなか、悪徳を追い払おうとする女神アテナ(ミネルヴァ)は、まるでゴールドアーマーを纏ったダイアナのようです。
この絵は謎だらけで解明されていない点が多いのですが、色々な解釈をすることが好きな自分としては、考える余白を持たせてくれているようで気に入っています。
前回に引き続き、今回も美術を絡めながらヒーロー映画を振り返ってみましたが
絵画も神話もコミックも、同じモチーフを、色んな人が伝え/描いていくことで、豊かな歴史を蓄えていく継承の芸術なのだと改めて痛感しました。
<終>
長々とまとまりのない文章にお付き合い下さり有難うございました!
今後も気まぐれに気が向けば、記事を上げていこうと思います。
美術と観る『ワンダーウーマン』(前編)
私は絵画と美術史を学んでいました。
その名残なのか、ふとしたときに美術的な表現やオマージュを探したりもしくは、それが盛り込まれた意図を考える癖があります。
今回はそんな私の習慣に近い楽しみを通して、映画『ワンダーウーマン』と『ワンダーウーマン1984』(以下『WW84』)で今まで気がついたことをまとめてみようと思います。
この2作の監督であるパティ・ジェンキンスはかつて画家として活動していて、絵画への造詣が深いことや絵画的アプローチにこだわりがあります。それらが顕著に見て取れることから、今回この作品たちを記事のテーマに選びました。
映画に取り入れられた絵画作品
◇昔話のシーン
はじめに、実際に映画の参考になった絵画を紹介します。
『ワンダーウーマン』序盤でヒッポリタ女王が幼いダイアナに語る昔話
そのなかにアマゾン族が人間の隷属から解放されるために戦う描写があります。
by Houston Sharp
©️Warner Bros. Pictures
この場面のアート制作に携わったヒューストン・シャープ氏によるとヤン・マテイコの作品が元となっているそうです。
『グルンヴァルトの戦い』(1875~1878年) ワルシャワ国立美術館所蔵
この絵画はポーランドがドイツとの戦に勝利する様子が描かれています。
第二次世界大戦時には、その題材に反感を抱いたナチスに破壊されそうでした。
しかし、ポーランドの文化を守ろうとする有志達により安全な場所に隠されたことで生き長らえたという逸話を持つ作品です。
絵の構図だけでなく、こうした作品にまつわるエピソードまでもが人間の世界から逃れ、セミッシラで隠れて生きるアマゾン族という部分に通じていて、監督による参考作品のチョイスが秀逸だと感じました。
◇時代の演出に影響を与えた画家
『ワンダーウーマン』の全体的な映像の雰囲気作りは、画家のジョン・シンガー・サージェントが手本にされています。
映画の舞台となる時代に活躍した彼の作品を参考に、当時の空気感や人々の暮らしの様子が再現されました。
伝統的な手法と優れた観察力で対象を描写することに長けており「最後の肖像画家」と呼ばれた。
印象派の影響を感じられる構図や筆遣いで、光や陰影・物の質感を美しく表現した画家でもある。
第一次世界大戦では、戦場を記録する軍画家としても活躍した。
ジョン・シンガー・サージェント
©️Clay Enos / Warner Bros. Pictures
物と空間を強調する光と影が、まさにサージェントの絵画を想起させる一幕
サージェントが軍画家として描いた以下の作品は、毒ガス兵器の被害にあった悲惨なベルギーの光景を記録したもので、『ワンダーウーマン 』の無人地帯やヴェルドの村を彷彿とさせます。
ジョン・シンガー・サージェント
『ガス』(1918~1919年) 帝国戦争博物館所蔵
サージェントの作品は歴史の資料としても面白いのですが、惚れ惚れする色彩の「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」や、当時としては攻めた作風の「マダムXの肖像」といった興味深い作品も沢山あるので、是非そちらも見て頂きたいです。
80年代とキービジュアル
この項目では『WW84』のキービジュアルに抱いた感想と憶測を述べたいと思います。
ジェンキンス監督曰く"現代を揶揄・並列で語るに相応しい"として『WW84』の舞台に選ばれた80年代。(『WW84』劇場パンフレット参照)
©️Clay Enos / Warner Bros. Pictures
ジャスパー・ジョーンズ
『Cicada Ⅱ』(1981年)
私が『WW84』のキービジュアルが解禁されて、まず最初に頭に浮かべたのは、上に引用したジャスパー・ジョーンズ*の作品です。
ジャスパー・ジョーンズは、既成概念から一旦距離を置き、惑わされずに見ろというメッセージを発している芸術家だと私は思っています。
これは、目を逸らさずにありのままの真実を受け入れよという『WW84』のテーマにも似通った部分がある気がします。
私個人の推察ですが、奇抜な色調でコントラストが強いながらも境界が曖昧な『WW84』のキービジュアルは、当時のアートシーンを意識しつつ、冷戦の緊張感漂う現実と楽観主義が入り乱れた時代、虚栄に拍車をかけそうな混沌とした世相を反映しているのではないでしょうか。
* ジャスパー・ジョーンズは、国旗や的をモチーフにした作品などで有名なアメリカを代表する芸術家。
(ジョーンズの全盛期は80年代より少し前になる。)
絵画を楽しむヒント
ここでは話題を少し変えて、絵画を楽しむヒントについて触れていきます。
美術鑑賞は、名画とされるもの・スゴイ作家のスゴイ技巧・作品の持つ強いメッセージ性に圧倒されてみるのも、楽しみ方のひとつではありますが、実はそれ以外にも魅力があります。
特に昔の西洋絵画は、暗黙の了解を把握しているだけで、隠された意味が分かったり、作品の見え方がガラリと変わってくるという面白さがあります。
◇アトリビュート(象徴)
まず、西洋絵画は宗教画なくしては語れないと言っても過言ではありません。
宗教画は、文字の読み書きができない人でも内容が把握できるように絵に登場する人物を象徴する色やアイテムが予め決められています。
それをアトリビュートと呼びます。
キューピッドを判別する場合に使われるアトリビュートは「天使」や「弓と矢」
(つまり目印のこと)
◇アレゴリー(寓意)
そして、アトリビュートとは別に絵の中で教訓をほのめかしたり、概念などを具現化して例える比喩表現をアレゴリー(寓意)と呼びます。
この2点を踏まえるだけでも、西洋絵画の面白さはグッと広がります。
ちなみに、私が初めてアレゴリーに触れた&衝撃だった作品は、アーニョロ・ブロンズィーノの『愛の寓意』です。
この絵画の解説をしているサイトは沢山あるので、興味があれば調べてみて下さい。
(ちょっと怖い雰囲気の絵画なので、そういうのが苦手な方は注意してください。)
ワンダーウーマンを象徴するもの
前の項目で紹介したアトリビュートと寓意的な要素は、『ワンダーウーマン』と『WW84』の劇中にも用いられているのではないか?と私は考えています。
後編への前ふりもかねて、そのうちのいくつかを挙げていきたいと思います。
◇色の寓意
『ワンダーウーマン 』の晩餐会のシーンで着ていたドレス、『WW84』冒頭の競技会で用いられる目印のシンボルカラー、バーバラと初対面した際に着用していたセットアップなど、ダイアナの身の回りには青色が多く登場します。
「青」には真実、平和、希望という意味があります。
『ワンダーウーマン』ではダイアナが意を決して無人地帯に飛び込むシーンにも、意図的に青い煙が特殊効果として加えられています。
鑑賞時にはなかなか気づけませんが、 無人地帯の撮影時に使われた「青い煙」はこのぐらいの紛うことなき青で、撮影中にクリス・パインが驚いたそうです。
(『ワンダーウーマン』収録の特典映像より)
◇ アトリビュートとしての色
アトリビュートとして「青」は、聖母マリアを示す色でもあります。
聖母マリアは主に、青色のケープや上着を纏い、その下には赤(=慈愛の意)もしくは白い(=純潔の意)服を着た姿で描かれることが多いです。
『大公の聖母』(1504年~1506年) パラティーナ美術館所蔵
実はこのような色の組み合わせは、劇中のダイアナのコーディネートでも見受けられます。
©️Clay Enos / Warner Bros. Pictures
ワンダーウーマンといえばお馴染みのアーマーもまさにこの配色
©️Clay Enos / Warner Bros. Pictures
こうした色の表現は、ダイアナが平和と真実の象徴であり、聖母マリアのような「特別な存在」という印象を与えます。
恐らく、ワンダーウーマンの生みの親である原作者ウィリアム・モールトン・マーストンも現代の女神(=アテナを基盤としてキャラクターを作り上げた説がある)としてワンダーウーマンを世に送り出すべく、キャラクターのデザインにその意図を込めた可能性があるのではないでしょうか。
~後編へ続く~
(後編は主に『WW84』に見られるアトリビュートやアレゴリーを軸に各キャラクターを掘り下げていきます。)
【余談】
ワンダーウーマンの原作者について
ワンダーウーマンの生みの親ウィリアム・モールトン・マーストン教授は、心理学者であり嘘発見器を発明した人物でもあります。
縄状の装置で脈拍を測定する嘘発見器は、「ヘスティアの縄」のモデルとされています。
マーストン教授(一番右)と嘘発見器
一番左は、ワンダーウーマンのモデルになった妻の一人、オリーブ。
(彼女の腕には「降伏の腕輪」のモデルとされるブレスレットが確認出来る)
©️Clay Enos / Warner Bros. Pictures
実は、マーストン教授は、一夫二妻制というライフスタイルをとっていました。
妻と子供たちを守るため、これを周囲に明かすことなく暮らしていたようです。
嘘発見器を発明した本人が世間に嘘をつかねばならない状況にあったとは、何とも皮肉な話です。
しかし裏を返せば、自分を偽らなくて良い世界が来てほしいという願いがあったからこそ真実と共に戦う象徴の「ワンダーウーマン」を世に送り出したのではないでしょうか。
また、ダイアナが、人間の世界で考古学者・文化人類学者という職業に就く設定は、知識や文化の面でも人間を助けるのがワンダーウーマンの務めとされている気がします。
そして、マーストン教授の「無知こそが罪であり、人を堕落させる」という思想を反映したかのように思えます。
(不老不死ゆえに歴史にとても詳しく、それを怪しまれずに辻褄を合わせられる職が学者という説もある??)
☆2017年に、マーストン教授の伝記映画
『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』がルーク・エヴァンス主演で製作されているので、
ワンダーウーマンの誕生秘話が気になる方はご覧になってはいかがでしょう。
個人的には、コミックのモチーフになった様々なものが登場する場面...特に奥さんたちからのとあるプレゼントにグッと来てしまいました。(あれはフィクションかもしれないけど。笑)