何気なく登場するアイテム【スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム】
世界中のマーベルファンが怒涛の展開とサプライズに度肝を抜かれ、人によっては『アベンジャーズ/エンドゲーム』にも匹敵する衝撃を受けたかもしれない『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム(以下、NWH)』。
【注意】この記事は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のネタバレを含むため、映画鑑賞後に読むことをお勧めします。
ジェットコースターのように山場が点在する展開、そしてあの結末…
正直、終盤は収集のつかない自分の情緒とピーター・パーカーに対する不憫な思いに押しつぶされそうになった。
しかし、私はとあるモノを目にした瞬間、希望を感じることが出来た。
今回は作品に登場するそんなアイテムを紹介したい。
何気なく紛れ込む重要なアイテム
ニューヨークに訪れたことがある、もしくはニューヨークを舞台にした映像作品をよく観る人にとってはお馴染みのアイテムがある。
それがこの紙コップ、その名もAnthora(アンソラ)!
通称 ニューヨーク コーヒーカップ!(そのまんま)
日本に住んでいるとなかなか馴染みがないものなので、今回NWH鑑賞した際に初めて目にした方もいるだろう。
実はこれ、自由の女神やタイムズスクエアに並んでニューヨークを象徴するアイテムと言っても過言ではないのだ。
本作でサプライズ出演しているマット・マードックことデアデビルのドラマシリーズでも何度かこのコップは登場している。
Anthoraは1963年に東欧出身のレスリー・バック氏により生み出された。
(スパイダーマンがコミックに初登場した翌年にこのコップが誕生したことに、少し運命めいたものを感じてしまう。)
当時、ニューヨークにあったダイナーの多くはギリシャ系移民によって経営されていた。
そこに注目したバック氏は、紙コップのベースカラーにギリシャ国旗の青色と白色を採用。
印字の字体や装飾もギリシャ風にすることで移民の郷愁を駆り立てるデザインを目指し、顧客の心を掴もうとした。
この作戦が功を成し、バック氏のコップは瞬く間にニューヨークに広まり、市民に愛されるようになる。
※コップ誕生の詳しい経緯はこちらの記事・動画を参照下さい。↓
このコップにオレンジ色の文字でプリントされているWe are happy to serve you.という文は、直訳すると「私たちはあなたに給仕できて幸せです。」となる。
個人的にこの言葉は、場面によって様々な意味を含みつつ、NWHにおけるニューヨークとスパイダーマンの関係も表しているように思える。
ここからは、NWH終盤のドーナツ店(MJのバイト先)とピーターの新居の場面を振り返りながら、コップについての私の考察を述べたい。
①1回目のコップの意味
「以前のようにMJやネッドとの友情を取り戻せるかもしれない!」と淡い期待を胸にドーナツ店を訪れるピーター。
しかしその願いは叶うことはなく、結果として彼らは別々の道を進むこととなる。
そんなシーンで、このコップが1回目の登場を果たす。
この場面でのコップの文字We are happy to serve youは「私たちはあなたをいつでも支えるよ!」という街からピーターへ宛てたエールを意味する。
すべてを失ったピーターに追い打ちをかけるような悲しい別れの場面ではあるが、MJからコップが手渡されたまさにその瞬間に、ピーター(スパイダーマン)が守る対象は「特定の個人」ではなく「街全体」に変わったのだと私は確信した。
(と同時に、ピーターの存在を忘れても彼の背中を押すMJというパートナーの存在の大きさを際立たせる演出でもあったと感じている。)
今作はミステリオによる暴露とジェイムソンの報道で、スパイダーマンに対して攻撃的な市民が目立っていた。
しかし、過去のサム・ライミ版スパイダーマンでもアメイジングスパイダーマンでもそうだったように、本作のスパイダーマンを助ける市民は(MJやネッド以外)にも現れるだろうという期待をこの場面でのコップの言葉が抱かせる。
②2回目のコップの意味
NWH終盤は、先程のドーナツ店でのやりとりの後にメイ伯母さんの墓前の場面を経て、ピーターの新居のシーンに移る。
レゴのパルパティーン皇帝を映した直後、再登場したこの紙コップに焦点が合うカットが用意されている。
この場面でのコップの文字 We are happy to serve youは、先述の街からのエールに対するピーター&スパイダーマンからのアンサーである。
つまり「私たち(ピーターとスパイダーマン)は、あなた達(街)に奉仕できることが幸せです。」という意味であり、街を守っていく決意表明である。
このように、2つの場面で登場することで、このコップが街とスパイダーマンの今後の相互協力関係を表すのに一役買っている。
コップの生みの親であるレスリー・バック氏は、第二次世界大戦で両親を失い、そして彼自身もホロコーストを生き延びてアメリカにやって来た移民である。
波乱万丈な境遇を生き抜き、No Way Homeな(戻る場所のない)状態だったバック氏。
そんな彼が多くの移民が暮らすニューヨークで、どんな境遇の人でもアットホームを感じられ、温かい気持ちになるWe are happy to serve you(あなたに仕えられて/尽くせて幸せです)という親しみが沸く文を紙コップに印字することは、彼なりの社会貢献であると同時に、新天地での自身の生活を鼓舞する意味合いがあったのではないだろうか。
そんな「転機を彷彿させるこの紙コップ」に、再出発の象徴である街・ニューヨークのヒーローとしてようやくスタートラインに立ったピーターの決意表明の役割を担わせる演出に唸ってしまった。
ちなみに、ここでパルパティーン皇帝の人形が映る意味は、
ヒーロー同士の争いに巻き込まれたり…
宇宙を股にかけた壮大な戦いに参加したり…
と、今までディズニー(スターウォーズを配するディズニー/MCU)のスパイダーマンとして奔走してきた過去に区切りをつけ、ついに親愛なる隣人・スパイダーマンとしてニューヨークに根を下ろしたヒーロー活動に本腰を入れていくという意志がこの場面のカメラワークから受け取れなくもない。(今後何が起こるのか分からないので断言はできない。笑)
③スパイダーマンの信念
街とスパイダーマンの関係性を表す以外にも、更にもう一つこのコップが代弁していることがある。
それは、スパイダーマンをヒーローたらしめる大事な精神だ。
アメリカという社会は、自分の得意なことで誰かの役に立つこと・自分が率先してリーダーになれるような得意分野を持つことを尊重し、個人が自発的に他者のために行う奉仕活動や地域貢献を大切にしている。
それはなぜなのか?
スパイダーマン:ファー・フロム・ホームでのチャリティーのシーン
・ひとりひとりが社会に良い影響を与えられる体験が出来る
・活動を通して自分自身と向き合いながら何かを深く学べる
・学業や就職で有利になる
など理由はさまざまではある。
しかし、人々をこれらの活動へと突き動かす最もシンプルかつ大きな要因は 「隣人愛」ではなかろうか。
※「隣人愛」
自分の家族・知人・友人だけでなく、助けを必要としている人(=隣人)が居たら、それがたとえ敵であっても手を差し伸べなさいという慈しみの精神。
(恐らく「隣人を自分のように愛し・誰しも良き隣人であれ」というキリスト教の教えに起因する。)
先程から何度も紹介しているコップの文
そこに含まれるserveという単語は、単なるサービスという意味合いの「給仕」だけではなく「奉仕」という意味合いもある。
それを踏まえると、このコップの文は隣人愛を体現し、奉仕の精神に生きたメイ伯母さんと彼女の墓石に刻まれた「誰かを救うとき、また他の誰かを救っている。」という教訓を思い起こさせるのだ。
コップが登場するドーナツ店とピーターの新居のシーンの間に、メイ叔母さんの墓前のシーンを挟むのはそういう意図とも絡めてる?
このメイ叔母さんが残した教訓(アメリカが理想とする通念と言っても過言ではない)は、スパイダーマンを親愛なる隣人たらしめる核であり、彼にしかできない地域貢献=ヒーロー活動の原動力なのだ。
冒頭でも記したように、私は悲しい気持ちに浸りながらNWHの終盤を鑑賞していた。
しかし
親愛なる隣人に相応しい『座右の銘』ともとれる文を施したこのコップを片手に、新しいスパイダーマンのスーツを作り、人生をまた一から立て直そうとするピーターを見て…人生の再出発を図ろうとしている人に対して同情の念を抱くことほど失礼なことはないのでは?とハッとした。
寧ろこのコップに恐らく含まれている意図に気付いてからは「色んな困難が待ち受けようともピーターはきっと大丈夫!」とポジティブな応援の気持ちが芽生えていた。
今後もスパイダーマンにしかできない・スパイダーマンだからこそ出来るヒーロー活動に大いに期待したい。
またスクリーンで会える日を楽しみにしているよ!スパイダーマン!