美術と観るワンダーウーマン(後編)

  【注意】ワンダーウーマン』『ワンダーウーマン1984』のネタバレを含みます。

 

「美術と観るワンダーウーマン(前編)」では、映画に関連する絵画作品などを紹介しました。

su9ar.hatenablog.com

 

今回は、プロダクションデザインという意味での美術(+衣装)を取り上げ

前回の記事で紹介した絵画の楽しみ方のような視点でワンダーウーマン 1984』(以下『WW84』)を中心に、劇中に登場するアイテム・衣装・人物に何らかの意味が込められていたら?と仮定しながら、私なりに各キャラクターと映画を掘り下げていきます。

プロダクションデザインとは、建築物・大道具・小道具・装飾などを担う、映画の世界観を表現するのには欠かせない部門。

 

この後編では、キリスト教ギリシャ神話、ローマ神話を度々交えながら考察を記述しています。

どうしても煙たがられがちな「宗教」ですが、これらは西洋に暮らす人のアイデンティティー形成や、様々な作品や文化に影響を与える要素でもあります。

うんちくや話のネタだと思って、軽い気持ちで読んで頂ければ幸いです。

 

CONTENTS

 

 

プロダクションデザイナー

 

本題に入る前に、『WW84』の美術部門を統括するプロダクションデザイナーのアリーヌ・ボネット氏について紹介します。

《アリーヌ・ボネット》 フランス出身のプロダクションデザイナー。
アメリ』をはじめ、ジャン=ピエール・ジュネ作品に多く携わる。
パティ・ジェンキンス監督は、彼女のことを観察眼が鋭く、創造性豊かで細部まで手を抜かないと評している。

”土台や建築物などの大きいものをしっかりと完成させ、色を塗り、装飾を施して、色々な過程を踏んでこそようやく理想のセットは完成する。そこに照明や衣装を纏った役者が加わることで奇跡の瞬間が訪れる。”

(アリーヌ・ボネット、『ワンダーウーマン』特典映像より引用)

 

 

過去の参加作品の面影 

ボネット氏がセット装飾で参加した『ロストチルドレン』という作品があります。

この映画には、一際存在感を放つクローン人間たちの実験室が登場します。

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『ロストチルドレン』(1995)©UGC

このセットの風合いと並べられた数々のモノが醸し出す独特の不気味さやは、マル博士の毒ガス研究所に通じます。

セットのこだわりへの証言

マル博士の研究所のセットで撮影をしたクリス・パインダニー・ヒューストンによると、撮影をしないはずのセットの隅にドイツ語で書かれたメモが置かれていたり、誰も見ないような引き出しの中にまで小物が準備されていたそうです。

細部までしっかりと作り込まれたセットは、役者が役に入り込む際の手助けになったり、様々なアドリブにも対応するためにも重要ではありますが、ここまで世界観を徹底的に作り出すボネット氏や美術スタッフの根気には脱帽します。

 

他にも、ワンダーウーマンでは、ボネット氏の過去の参加作品の片鱗を感じることができます。

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ロングエンゲージメント』(2004) ©Warner Bros. 

1918年の雰囲気や無人地帯の塹壕は、彼女がセザール賞最優秀美術デザイン賞を受賞したロングエンゲージメントで培ったノウハウと技術が応用されているように思えます。

 

ボネット氏と美術チームの情熱と仕事ぶりが特に分かる例として、『WW84』冒頭のショッピングモールが挙げられます。

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Landmark Mall, Alexandria VA ©Warner Bros. / DC Comics, Inc.

2017年に閉館された商業施設を利用して作られたモール

あらゆる資料を参照しながら、緻密にデザインを練り、各店舗のジャンルに見合った当時の商品を陳列することで、見事に完成した80年代のモールですが、ボネット氏が手掛けた店舗数はなんと65店舗(合計3フロア分)にも及びます。

モールのあまりの出来に、監督・撮影クルー・演者も撮影の合間に施設内を散策し、各自の思い出の詰まった商品などを見つけては、タイムスリップした気分を味わっていたそうです。 

 

 

 美術の役割

実際のものにしか出せないリアルがあると考え、手作業の工程や、美術の力を信頼するジェンキンス監督の並々ならぬこだわりや、

アリーヌ・ボネット氏の言葉“私の仕事は美を作りだすのではなく、物語を細かい点まで自分なりに語ること(『ワンダーウーマン』特典映像から引用)から察するに、劇中には、ふとしたシーンも、そこに写るものにも、何かしらの意味が潜んでいる気がします。

 

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パティ・ジェンキンス監督と撮影監督 ©Clay Enos / Warner Bros.

ワンダーウーマン』『WW84』の撮影は、部門の垣根を越えた小まめな情報共有の場が設けられ、スタッフ各自が積極的に作品づくりに臨める自由な環境だったそう。

 

 

『WW84』あらすじ

1918年、アマゾン族の王女ダイアナは、スティーブ・トレバーと彼の仲間たちと協力し、大きな犠牲を払いながらも軍神アレスを倒す。

それから66年の月日が流れた1984年、ダイアナはスミソニアン博物館で学芸員として勤務する傍ら、密かに平和を守る活動をしていた。

 ダイアナの同僚バーバラ・ミネルヴァの元に、強盗事件の鑑定依頼が飛び込み、物証として「代償と引き換えに持つ者の願いを叶える」という魔法の石ドリームストーンが送られてくる。

思いがけずドリームストーンに願い事をしたことをきっかけに、不思議な現象に見舞われるダイアナとバーバラ、そしてその石を狙う魔の手が忍び寄るのであった...

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©Warner Bros. / DC Comics, Inc.



 

ダイアナ・プリンス/ワンダーウーマン

 セッミシラに住む女性だけの部族、アマゾン族の王女。ヒッポリタと神ゼウスの子。

ティーブ・トレバーとの出会いをきっかけに、第一次世界大戦真っ只中だった人間の世界に足を踏み入れる。

不老不死(長寿?)のため、本作の舞台である80年代でも変わらぬ姿で生き続けている。

 

ギリシャ神話の女神

原作者の伝記映画でも言及されていたり、コミックでも通じる部分があることから、ワンダーウーマンには、ギリシャ神話の女神アテナの要素が少なからず盛り込まれていると考えられます。(コミックに同名のキャラクターが存在するので、ややこしいですが)

『WW84』の場合は特に、その影響を強く感じました。詳しくは、下記のアイテムやスティーブ・トレバーの項目で述べたいと思います。

 

《アテナ》

ギリシャ神話における戦い(正義、勇気)と知恵の女神。

鎧を身に纏った完全武装の状態で父ゼウスの頭から飛び出してきたというびっくり誕生秘話を持つ。

絵画では勇ましく描かれることが多く、王族や為政者の肖像画のモチーフとして人気があった。  

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レンブラント・ファン・レイン  『パラス・アテナ』(1664年〜1665年)

グルベンキアン美術館所蔵 

女神アテナは金色の鎧を纏った姿で描写されることが多い。

 

戦闘で活躍したアイテム 

『WW84』のダイアナは、ドリームストーンでスティーブを生き返らせた代償にパワーを失いました。

戦闘の場面では、弱体化した彼女の代わりに、お馴染みのアイテムたちが活躍します。

実はそれらには、武器以外の意味がある気がしたので、私なりの考察を紹介します。

 

ヘスティアの縄》

『WW84』で大活躍したヘスティアの縄。

縄に捕らわれた相手に真実を吐かせたり、マインドコントロールを解く作用もある。また、ときとして真実を伝達する働きもする。

 

ヘスティアとはギリシャ神話の炉の女神です。

炉=囲炉裏は家の中心に位置し、生活に欠かせない重要なものであることから、

家庭・家庭の延長として考えられる国(世界)を守護する女神と称えられました。

孤児たちや困窮した人々の保護者でもあり、平穏を愛する優しい女神とされます。

ヘスティアは、人間の生活にとって欠かせない炉の火を絶やさないため、人間のそばを離れなかったと考えられます。これがこの女神が、神話に頻繁に登場しない=ギリシャ神話では目立たない神だとされる由縁でもあります。

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© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.

人間に寄り添い、人知れぬ状況で世界を守るダイアナは、女神ヘスティアと立場が重なる。

『WW84』の劇中でヘスティアの縄は、人知を超えた力が備わったものだと言及されます。争いごとから縁遠いヘスティアによって作られたと考えると、攻撃的な武器というよりも、人を守るためのものだと考える方がしっくりきます。

そんな意味合いを含んでいそうなこの縄を、前作より各段に幅広いバリエーションで使いこなすダイアナの姿は、彼女が世界を守る者として、模索しながら成長していく様子を表しているようです。

 

《ティアラ》

星を模したこのティアラは、ダイアナのロールモデルである伯母アンティオペの形見。戦闘時はブーメランのように使用できる。

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© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.

自分を見失ってはいけない、嘘からは真の英雄は生まれない、とダイアナを律するアンティオペ

真実は、時として残酷で無慈悲でありながらも、必ずどこかに希望も帯同しているはずです。

「それを見出して奮闘する者には、真実は味方になり得る」という真理、そして最強の戦士たるものは真実の番人であれといわんばかりのアンティオペの思いがティアラには詰まっているのではないでしょうか。

 

アトリビュートの視点で見ると...

星のティアラ(冠)は、聖母マリアにとって重要なアイテムとされる。

これには、愛・喜び・平和・寛容・慈悲・善良・忍耐・柔和・誠実・慎み・節制・貞潔という意味がある。

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フランシスコ・デ・スルバラン『無原罪の御宿り』1630年~1635年 プラド美術館所蔵

星のティアラを冠した聖母マリア

 

《ゴールドアーマー》

アマゾンの誇り高い戦士アステリアがアマゾン族をセミッシラへ逃す際に着用していた鎧。

アマゾン達の鎧を集めて作られたのがこのアーマー。

アトリビュート・寓意の視点で見ると...

金色⇒世の光、神の色を象徴する。

鷲⇒勝利や再生、正義を表す。ゼウスの分身と信じられている。

アステカ文明などでは、「鷲」はネコ科の動物と敵対すると考えれ、チーターに挑むにはうってつけの装備と言えます。(ちなみに、映画でのダイアナをはじめ、アマゾン族のアーマーは、アステカの民族衣装とアールデコをモチーフとしています。)

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© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.

元はコミック「キングダムカム」でアレックス・ロスがデザインしたアーマーを基に実写化

世界を救うため、スティーブに別れを告げたダイアナは、マックスを止めるためにゴールドアーマーを装備して飛び立ちます。

アマゾン達の鎧を集めて作られたこのアーマーを纏って出陣するということは、愛しい人や同胞・救いを求める人々の思いをダイアナが一身に背負っているとも受け取れ、

故郷で崇められていた英雄アステリアのように、もしくは神のように、希望の存在に進化したのだと思わせます。

 

ダイアナを象徴する動物

スミソニアン博物館内で、ダイアナとバーバラが初対面するシーンで、どうしても私の興味を引くものがあります。

それは、ダイアナの後ろに佇む孔雀の剥製です。

(しかも動物としてではなく、神物的なジャンルで展示されている?)

アトリビュート・寓意の視点で見ると...

孔雀はの使い死んだ後も肉が腐らないと信じられたことから、不死のシンボルとされる。(キリストの復活の象徴でもある。)

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 ダイアナの不老不死(長寿?)という特徴・文明や技術が発達しても、相変わらず争いの絶えない人間の世界にとってのンダーウーマンの存在意義の普遍性を際立たせるポイントとして、この剥製が配置されているように思えました。

また、死者の復活を予兆するとされる孔雀の登場は、ティーブが蘇ることを示唆しているとも取れます。

 

ダイアナが担う役割

アクションやバトルを期待した人からすると、『WW84』は少々物足りなかったかもしれません。

しかし、キャラクターの原点に立ち返り、「人間を守る」という本来のワンダーウーマンの使命を思い出させてくれたという面では評価に値すると思います。

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© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.

強盗と対峙した際もはじめは彼らを諭し、武力行使は最終手段としていた

ワンダーウーマンとは、単にスーパーパワーがあるから強いのではなく

苦難にぶつかってもめげない精神、信じる心、他者にゆだねる勇気を持っているからこそ強いのだと改めて感じました。

 

 

 

ティーブ・トレバー

アメリカ陸軍パイロットで、第一次世界大戦ではイギリス軍諜報部でスパイとして活動。

毒ガスを積んだ飛行機の爆撃を防ぐため自ら飛行機もろとも爆破し死亡した。

『WW84』では、ダイアナが人の願いを叶えるドリームストーンという石に「トレバーを生き返らせたい」と願った結果、彼の魂がとある男性に憑依することで復活する。 

 

ティーブを表すアイテム

《時計》

「苦境に面したときの行動で人間の真価は決まる」というスティーブの父の教えを思い出させるアイテム。今作ではスティーブの形見として登場する。

◇寓意の視点で見ると...

時計は節制を意味し、正しい道へ導くものとされる。

 

いつの時代も、ダイアナを正しい道に導く手助けをする善良な人間として、スティーブを象徴するのがこの時計と言えます。 

(以前、セミッシラの泉で怪我を治癒していたスティーブが、あなたは標準的な人間なのか?とダイアナに質問された際に、「それ以上」と返答していました。これは笑いをとる意味だけでなく、善人として標準以上なスティーブの本質が、彼の意図せぬ形で表れた瞬間だと思います。) 

 

《スニーカー》

80年代ファッションショーを繰り広げるコミカルなシーンで、ナイキのスニーカーがトレバーのお気に入りアイテムとして取り上げられる。

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Nike Classic Cortez Premium QS®

トレバーが兵士として仕えたアメリカ、そしてワンダーウーマンを象徴する色がデザインされたスニーカー

ご存じの方もいるでしょうが、

ナイキというブランドの名前は、ギリシャ神話の女神ニーケーが由来になっています。

 ニーケーは勝利を司る神で、アテナにとっては欠かせない随神とされます。

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オーストリア国会議事堂前のアテナ像 ©Dennis Jarvis

勝利をもたらす守護天使のようにアテナの右手に乗るニーケー

アテナ=ダイアナを正義へ導くニーケーであり、頼もしいパートナーとしてのトレバーをこのスニーカーを通して強調しているのではないでしょうか。

 

 

動物と食べ物が意味すること

《魚》

自分の魂を宿した男性の自宅で、復活してからダイアナと再会するまでの経緯を説明するスティーブ。その後ろには魚の入った水槽がある。

英語にはlike a fish out of waterというイディオムがあります。

直訳すると水から出た魚ですが、場にそぐわない人という意味で使われます。

この状況のスティーブはまるで、水槽から出てきた魚のようであり、この世にそぐわない存在だと示唆しているようです。

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© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.

 スティーブのこの世ならざる者という立場は、次に紹介する食べ物でも強調されている気がします。

 

《ポップターツ》

ティーブがベッドで頬張っていた食べ物。

パンとクラッカーの中間のような歯応えのある生地に甘いフィリングが入っており、外側にもフロスティングがかかった、スナック兼アメリカの朝食定番メニュー。

個人的にはシリアルと人気を二分している印象がある。(特に子供に人気)

 

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Pop-Tarts®︎

種類は20以上にものぼる。

稀に「なぜ商品化したの?」と疑問を抱きたくなる風変わりな味も発売されている。

 この食べ物の名前にあるタルト(tart)は、キリストの復活祭で食べられるメニューでもあります。

また、キリストが最後の晩餐で食したと伝えられるマッツァー(クラッカーのようなパン)と同じルーツを持っています。

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見た目もポップターツに似ているマッツァー

この2つの意味を考慮すると、スティーブが美味しそうにポップターツを食す描写は、彼自身が復活の喜びに浸っているようでもありこの世での最後の食事をしているように見えます。

※ 魚やパンは、キリスト教にまつわる要素であり、スティーブの自己犠牲の精神を仄めかしているとも捉えられます。

 

 

『WW84』のスティーブの立ち位置は前作から決まっていた?

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Wonder Woman(2017) ©Warner Bros. / DC Comics, Inc.

ワンダーウーマン達の後ろには、兵士に扮したザック・スナイダーやDC映画専属の写真家クレイ・イーノスが背後に映り込んでいる。

バットマンvsスーパーマンワンダーウーマンの印象を強烈にしたこの写真は、第一次世界大戦当時の技術である湿板写真を実際に用いて撮影されました。

 

被写体は、撮影の瞬間はしばらく動いてはいけないのですが、クリス・パインが少し動いてしまった結果、スティーブがぼんやりとした印象の写真が出来上がりました。

しかし、ジェンキンス監督は、このブレて写っているスティーブが霊のような雰囲気があってロマンティックであり、伝説の人物の様相が出ていて良いとしてこの写真を採用しました。

一作目の時点で、監督はトレバーに霊=守護霊的ポジションを担わせる意図があったのかもしれません。

 

永遠の存在、スティーブ・トレバー

ティーブは、すべての事象には必然性と意味があること、大切な誰かの思いや魂はいつもそばにいてくれること、とんでもないこの世界も素晴らしいのだ、とダイアナに伝え、彼女を表層的な孤独から解放する重要な役割を担っていました。

(『ワンダーウーマン』冒頭のナレーションを思い出してみると、スティーブの意志は現在もダイアナに大事に受け継がれていることが伺えます。)

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©Warner Bros. / DC Comics, Inc.

劇中で飛行機を見かけるたび、今までも、これからもスティーブは大空から見守ってくれているだろうという想いが込み上げます。

◇余談◇

私の勝手な憶測ですが、ジェンキンス監督は、戦闘中に亡くなってしまった自身の父(空軍パイロット)をスティーブと重ねているのではないでしょうか。愛する人を失う悲しみ、多大なる喪失感と葛藤は、ダイアナだけでなく監督自身も経験してきたのかもしれません。

ジェンキンス監督は、この時期(7歳の頃)にリチャード・ドナー監督の『スーパーマンリンダ・カーター演じるワンダーウーマンに夢中になっていたとインタビューで答えていたのを記憶しています。

計り知れない悲劇に見舞われたであろう幼い彼女を、これらの作品が少なからず癒していたのではないだろうか?ヒーローが現実にもたらす影響と力をこのとき知ったのではないだろうか?と考えてしまいます。 

 

 

マックスウェル・ロード

テレビでお馴染みのビジネスマンとして世間では認知されている。

しかし表向きの華やかさとは打って変わり、彼が経営する投資会社は殆ど破綻していて、出資者からは詐欺師扱いされる。

紆余曲折を経て手に入れたドリームストーンに「石そのものになりたい」と願ったことで特殊なパワーを得たマックスは、人々から願いを引き出しながらその対価として己の欲望を実現させていく。 

 

マックスのモデル

 マックスの衣装デザインは、ウォール街(1985年)のゴードン・ゲッコーが手本にされているそうです。

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ウォール街』©️20th Century Fox
出世欲の強い若手証券マンのバド・フォックス(写真中央)が、大富豪ゴードン・ゲッコー(写真左)との出会いをきっかけに金融犯罪に手を染めていくサスペンス

マックスの見た目や振る舞い方は、「強欲は正しい」と考え他者を利用しながら傲慢に生きるゲッコーに通じます。

しかし、”夢見がちで欲に翻弄されるも、最終的には家族の絆で目を覚ます”という共通点から考えるに、彼の中身はゲッコーに憧れるバド・フォックスに近い気がします。 

 

マックスを動かすもの

《ドリームストーン/シトリン》

触れた者の願いを一つ叶えるが、引き換えに願い事をした人の大切なものを奪う力を持つ。

この石を作ったとされる神の中にDCコミックスに登場する欺瞞の君主(Duke of Deception)、ドロスの名前が挙がっている。

◇寓意の視点で見ると...

宝石は富の虚栄とされる。

 

ドリームストーンの表向きの顔であるシトリン(商売繁盛、富、偽物を意味する)は、

“誠実・無垢”という意味を持つアメジストや水晶などに人の手を加えることで出来上がります。この石が生まれる過程は、他者や世間の目という外的な価値観(人の手)に翻弄されてきたマックスの人生を彷彿させます。

シトリンを器に邪悪な力を宿したドリームストーン、それと一体化したマックスは、過剰な欲と虚栄に蝕まれた不健全な思想の象徴とも言えます。 

  

《羊》

ドリームストーンの力で暴走するにつれ、寂れていたマックスのオフィスの装飾は、どんどん華美で邪悪な様相になっていきます。

ただ、そんな状況でも、最初から変わらず置かれているものがありました。

それは羊の頭蓋骨です。

アトリビュート・寓意の視点で見ると...

羊⇒受難、迷える人、生贄

骨⇒虚無

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世界を支配しようと目論むマックスは、見方を変えると、現代社会の病的な尽きることない欲に消費されている生贄でもあります。

幼少期の虐待や移民という風当たりの強い境遇から生まれた自己顕示欲は、歪となってとんでもない過ちを引き起こしましたが、本当の彼は助けを求めている人だとの羊の骨を見て確信しました。

(初めてこの骨が視界に入ったときは、ベタに罪人や悪魔の象徴である山羊のものだと思っていました。)

 

 

アリスタ

マックス・ロードの愛する息子。

父の軌道に乗らないビジネスや、調子の良い嘘に薄々気づいてはいるが、それでも彼を慕い、いつも一緒に居たいと思っている。

世界を滅亡しかねなかったマックスが正気を取り戻したきっかけとなる存在。

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© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.

両親の離婚で、日々寂しい思いをしていそうなアリスタ

奇しくも、この少年の "アリスタ"という名前 は、ギリシャ語の「人(男)を守るもの」という意味を持つアレクサンドロスが英語化したものです。

 

欲に目が眩み、世界中の人を巻き込んで身を滅ぼす寸前だった父マックスの目を覚まし、どんな自分でも愛して認めてくれる人が居る、と気付かせてくれたアリスタは、その名の由来の通りマックスにとってヒーローだと思います。

 

 

哀れな神様ごっこ

マックスの生い立ちと境遇から来る反動は、嘘の上塗りという処世術に形を変え、「力を誇示したい・人から必要とされたい」という欲を膨らませていきます。

 

その表れとして、彼の偽名が挙げられます。

実は、マックスの本来の苗字は、ロレンザーノだと明かされます。

これは映画独自の設定ですが、よりにもよってロード(Lord=神)という仰々しい名前を偽名に選ぶあたり、彼の病んだ自己顕示欲を如実に示している例だと思いました。

 

人々から崇められる究極の存在であるになろうとする様子は名前以外にも、渋滞を切り抜けるためにタクシー運転手にモーセ十戒の真似事をさせたり、オフィスの装飾が禍々しい神殿のようなデコレーション* に変化していたことからも窺えます。

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©Warner Bros. / DC Comics, Inc.

マックスは、真実から目を逸らす人間の驕りと弱さを体現したキャラクターであったものの、

自分が幼少期に与えられなかった関心や愛をアリスタに注ごうとする姿勢からは、彼の本質にある善の部分や人間が持つ希望を感じられ、なんとも憎み切れないキャラクターだと思いました。

 

* 華美なオフィスのデコレーションについて

確認が十分ではないので、断言は出来ませんが、ドリームストーンが滅亡に追いやったとされる各文明(その亡骸)を匂わせるような置物が多い気がしました。

例)カルタゴの象部隊を彷彿させるかのようにいくつもある象の置物・クシュ文明の神殿に鎮座するアモンのような置物・ローマの神殿のようなオブジェ・ジビルチャルトゥンで神格として称えられる豹を思わせる毛皮などなど 

 

 

バーバラ・ミネルヴァ

スミソニアン博物館の学芸員でダイアナの同僚。

優しく思いやりがあり、仕事においても優秀だが、本人は自身のことをドジでイケていない人間だと思っている。

暴漢から救ってくれたダイアナを見て、ドリームストーンに「ダイアナのようになりたい」と願うが、徐々にバーバラの行動がエスカレートし、チーターへと変貌していく。 

 

本来のバーバラ

《ネコ》

バーバラの周りには、常にネコの要素が散りばめられており、彼女の変化を示すバロメーターとして機能していそうです。

ドリームストーンに願い事をする前と後のバーバラを振り返りながら、これらがどういう意味を含んでいるのか考察してみたいと思います。

アトリビュート・寓意の視点で見ると...

ネコ は怠惰、悪魔・魔女の使いなど悪い意味で捉えられる一方、自由や神聖の象徴とも考えられる。相反する意味を背負った動物。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ《猫のいる聖母子の素描》1478年~1481年 大英博物館所蔵

当時は忌み嫌われていた猫だが、猫好きのダヴィンチが聖母子と猫を一緒に描いたことがきっかけで、聖なる動物だと捉えらるようになったという説もある。

(猫はイエス・マリアの象徴とされるのは、これも一因かもしれない。)


 

願い事をする前:

ネコ科の動物の標本やネコの要素に関連したものに囲まれるバーバラ

この時点のバーバラは、捕食者に狙われる弱者と見せかけて、本当の自分をさらけ出せない臆病な子猫のように私の目には映りました。

バーバラが描く理想の姿=強く逞しく自由に生きたいという憧れを、彼女を取り囲むかのように配置されたネコ科動物の標本や、レオパード柄のヒールを履いたダイアで表しているのではないでしょうか。

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© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.

本当に着たい服装をスカートで隠してることからも猫を被っているように見えるバーバラ

願い事をした後:

生きているような標本ではなく、骨だけになったネコ科動物の標本がよく映りこむようになり、同時に毛皮や動物のプリントを纏いだすバーバラ

アトリビュート・寓意の視点で見ると...

骨⇒虚無、死

毛皮⇒力の象徴

 

これらはバーバラが狩る側へと転向した合図であり、捕食者としての力を誇示する役割を担っているのではないでしょうか。

その一方で、彼女本来の良さ人間らしさが徐々に死に始めている印象を受けます。

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© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.

よっぽどなこだわりがない限り、真夏の7月にわざわざ毛皮を着ないのではなかろうか...?

 

 

《鏡》

ドリームストーンに願い事をして以降、鏡を見るバーバラの姿が何度か出てきます。

 アトリビュート・寓意の視点で見ると...

鏡は傲慢、真実を映し出す象徴

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©Warner Bros. / DC Comics, Inc.

どことなく、『バットマン リターンズ』のセリーナを彷彿させるバーバラ

ドリームストーンに願い事をした後に「鏡」というモチーフを登場させるのは、バーバラの外見的な変化に注目させるのはもちろんのこと、

バーバラの中にもともと眠っていた、大胆で奔放な面が解放されたことや、外部的な要因で手に入れたパワーと自信を自分のものだと錯覚して増長する傲慢さを映し出すアイテムのようにも思えます。

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Wonder Woman #6 ©️DC comics, Inc.

コミックでは、初代チーターのプリシラ・リッチがチーターに変身する際の重要なアイテムとして鏡が登場する。

 

ダイアナとの関係性

バーバラ/チーターはワンダーウーマンにとって宿敵の立場でもあり、不思議な縁で結ばれた表裏一体のような存在でもあります。

 

《女神の名》

偶然にもバーバラは、ミネルヴァというローマ神話におけるアテナの別名を名字に持っています。

これは、彼女がもう一人のダイアナ、あるいは対のキャラクターなのではないか?という想像を膨らませる要素のひとつです。

 

更に面白いことに

一方のダイアナ(Diana)の名前の由来を遡ると、ローマ神話の月の女神ディアナにたどり着きます。(ギリシャ神話のアルテミスに該当)

 ディアナは狩猟を司り、化身がネコであること*、そして人間嫌いで気性が激しい性格から、ダイアナよりもヴィランとしてのバーバラに相応しい名と言えます。

* エジプトのバステト神がギリシャ・ローマに移り、ディアナに変化したという説がある。

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ジャン=マルク・ナティエ 『ディアナに扮した女性の肖像』1752年

クリーヴランド美術館所蔵

高潔な神とされる傍ら、人間不信で残忍な側面もある女神ディアナ。

魔女に崇拝される存在とも考えられている。

 

 互いが互いの名前を表しているという不思議な関係は、二人に何か宿運めいたものが介在しているように思えます。

 

ちなみに、原作者ウィリアム・マーストン教授の妻たちがワンダーウーマンのモデルとされていますが、その宿敵であるチーターの着想も彼女らから得ていると思われます。 

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『マーストン教授の秘密』(2017年)

©Boxspring Entertainment, Stage 6 Films, Topple Productions.

ワンダーウーマン原作者のマーストン教授の伝記映画

※写真左から

マーストン教授(ルーク・エヴァンス)、ワンダーウーマンのようなボンテージ姿のオリーヴ(ベラ・ヒースコート)、チーターを思わせるコートを着た妻エリザベス(レベッカ・ホール)

 

 自ら決めた限界

セリフや振る舞いの端々から察するに、本質を理解せぬまま規範やステレオタイプに抑え込むバーバラは、間違った認識でなんでも決めつけてしまう人だということが分かります。

例)ダイアナとの初対面時、宝石鑑定のシーン、ランチの様子など

その見当違いっぷりは、本来の自分が持つ愛すべき長所を自らの弱点とみなして、自身を蔑ろにする原因でもあります。

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© Clay Enos / Warner Bros. / DC Comics, Inc.

ドリームストーンに願い事をしなくても、彼女にしかない魅力やパワーがバーバラにはある。

ない物ねだりな一面が彼女の暴走のきっかけであるとも言える。

最初に「ダイアナのようになりたい」と願った時点のバーバラは、ダイアナと対等、もしくはそれ以上のパワーを持っていたかもしれません。(コミックでいうところの腕輪を外した状態の暴走したワンダーウーマン?)

しかし、その後にマックスの力でチーターへと変貌を遂げたバーバラは、個人的には、とりたてて強化されたようには思えませんでした。

なぜなら、石の力で増幅した怒りと、計り知れない驚異(ワンダー)のパワー「捕食者の頂点」という人間が想像し得る範囲内に抑え込んでしまったようで

、ここでも彼女の見当違いが足枷になってしまったように映ったからです。

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© Bruce Timm, Ty Templeton, DC Comics,Inc.

生きとし生けるものは、調和をとりながら互いを支えあって生きている、と考えるアマゾン族のダイアナからしてみれば「捕食者の頂点」という概念は、人間が勝手に作り出した概念だと言えるのでは?

 

 自分の問題や状況を顧みず、都合の悪いことから目を逸らすバーバラは、脆く不憫であり、『WW84』の中では、良くも悪くも一番人間らしさを持ったキャラクターだと思います。

もし、ダイアナが重要な局面で真実を拒んだらどうなっていただろうか?という疑問への答えをバーバラに見た気がします。

 

バーバラの最初の願い事が取り消されたかどうかは明かされておらず、もしかすると、強靭なパワーは彼女の中に残ったままかもしれないので今後の動向が気になります。

コミックでは、利害が一致すれば、チーターはダイアナに力を貸すこともあるので、いつか映画でも共闘してくれないものか…と願うばかりです。

(キャットウーマン然り、やはりネコは気まぐれなのでしょうか。)

 

  

アステリアと星

 《アステリア》

希望と真実の象徴であり、ゴールドアーマーを着るに相応しい戦士であった。

人間によるアマゾン族の隷属解放のために戦い、同胞をセミッシラに逃がすべく、人間の世界にひとりとどまり身を呈して追手を足止めした。

 

アステリアとは...

ギリシャ神話・ローマ神話に登場する平穏を愛する正義の女神。

名前は、星のごとく輝くおんな流れ星を意味する。

アステリアは、Justice(正義)の語源であるユースティティアと同一視される。

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ジャスティス・リーグ』のロンドン中央刑事裁判所のシーン

©Warner Bros. / DC Comics, Inc.

ダイアナが乗っているのは、実はアステリア(ユースティティア)の像である。

 

アステリアという映画オリジナルキャラクターを演じたリンダ・カーターは、元祖実写版ワンダーウーマン*と呼ぶにふさわしい俳優であり、彼女が主演を務めたテレビドラマシリーズは、当時人気を博していました。(*実写版ワンダーウーマンは彼女で3人目ですが)

そして、幼少期のパティ・ジェンキンス監督がスーパーヒーローに憧れるきっかけとなった人物でもあります。

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©️Wonder woman / ABC, CBS / DC Comics, Inc.

1975年から1979年にかけて放送されたテレビドラマシリーズでワンダーウーマンを演じたリンダ・カーター

近年ではCWスーパーガールに大統領役で出演したり、ワンダーウーマン(2017年)公開時には宣伝CMにも登場していたため、映画本編にも出るのではないかと期待していました。(このときはあいにく実現しませんでしたが)

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今回ついに満を持して、リンダが演じるに相応しく、ワンダーウーマンに値するようなアステリアという役で登場したのは本当に感激でした。

 

アマゾン族をセミッシラに逃がし、使命を果たしたアステリアは、もしかすると人間の世界でワンダーウーマンとして平和の維持に努めていた(実質先代ワンダーウーマン)と考えても面白いのではないでしょうか。 

 

《星》

『WW84』の本編は、赤い星型の風船が空に浮かんでいき、そのあとに空を飛ぶワンダーウーマンのカットに切り替わって幕を閉じます。

 アトリビュート・寓意の視点で見ると...

星は慈愛、人を導く象徴。古代では、空に輝く星は神だと考えられていた。

*星はワンダーウーマンシンボルでもある。

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©Warner Bros. / DC Comics, Inc.

空に浮かんでいく風船を見上げるダイアナ。

前作の最後とは違い、彼女の表情はとても輝いている。

「星のごとく輝くおんな」というアステリアの名を継ぐかのごとく、輝かしく宙に舞うダイアナは、世界を愛と真実と正義で大きく包み込む存在になろうと決心し、星のように人間の歩む道を照らす希望の光へと進化したのでしょう。

 

 

 

おまけ:神の片鱗

《説法するおじさん》

マックスの暴走で内戦状態に陥りそうなホワイトハウス周辺のシーン。

自分の判断に迷い、憔悴するダイアナの目の前に、説法を説くおじさんが映る。

“「大患難」だ。終わりの日が来るぞ。見えるか己の罪深さ、己の強欲が。(『WW84』より引用)”という説法の言葉はまるで、おじさんを通して父ゼウスがダイアナに語りかけているようです。

 

《雷

トレバーと別れた後に、空の雲行きが怪しくなり、雷が光りだす。

アトリビュート・寓意の視点で見ると...

雷はゼウスのシンボル。コミックでは、ワンダーウーマンは雷を発生させる設定もある。

 

悲しみにくれている場合ではないぞ!と言わんばかりに絶妙なタイミングで、ダイアナを導くように落ちる雷は、父ゼウスの片鱗を感じられます。

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Wonder Woman (2017)  ©️Houston Sharp / Warner Bros. / DC Comics, Inc.

雷霆で軍神アレスを退けるゼウス(ゼウスは、この戦いで息絶えたとされる)

 

 

 

まとめ

 

『WW84』で街を散策するダイアナが放った「すべてはアート」という言葉があります。

これは、美術品に対してはもちろん、劇中の何気ないもの、そして世の中すべてのことに当てはまるようにも思えます。

また、この言葉を鵜呑みにしたスティーブがただのゴミ箱をまじまじと見つめる様子は、一見愛らしく少々滑稽です。

これは表層や固定概念に縛られずに本質を捉えること/世の中に美しさを見出そうとする真摯な人の姿を映し出しているようで、個人的に印象深いシーンです。

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Wonder Woman 1984 ©️ Warner Bros. Entertainment Inc. / DC Comics, Inc

ゴミ箱を見つめるスティー

(ロケ地である「ハーシュホーン博物館と彫刻の庭」は、リノベーションされることが決まっている為、この建物の姿を映像で観られるのは、この映画が最後だと思われる。)

 

 

 

『WW84』の感想

映画の締めくくりに、Lost and foundという曲が流れます。

(このタイトルのLostには、失う・負ける・迷うという意味があるので、何重にも意味が込められているのではないでしょうか。タイトルをそのまま訳せば、失って見つける/落とし物(の預かり所)になります。)

人生には、大事なものを失ったり、現実(真実)に打ち負かされたり、道を迷いそうになる局面が訪れることもあるでしょう。一方で、その経験があるからこそ、見えてくるものもあるのだと、『WW84』が一番伝えようとしているメッセージをこの曲が際立たせていたと思います。

 

『WW84』は、現実の無常さも希望も同時に味わえる、なんともいえない感慨深さを与えてくれます。

どんなときでも、諦めない心・色んな事物に真摯に向き合い、美しさを見出す目を養って生きたいと思いました。 

 

 

ワンダーウーマンとは?

ワンダーウーマンに続き『WW84』にも、ダイアナが他者からワンダーウーマンと呼ばれる描写はありません。

このワードは、特定の一人を指すだけでなく、ダイアナを支えた全ての人が冠するに値する名前であると考えます。

これは、現実でも言えることであり、ワンダーウーマンに憧れていた7歳の頃の自分を忘れずワンダーウーマンを作り上げた様々な人達に敬意と称賛を表現したい」と挑んだ監督、作品作りに関わったすべての人、そして、映画自体がワンダーウーマンだと私は思います。

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©️ Clay Enos , Warner Bros. Entertainment Inc. / DC Comics, Inc

『WW84』撮影中の一コマ

左から、パティ・ジェンキンス監督、ガル・ガドットペドロ・パスカルクリステン・ウィグ

 

 

最後に、私が『WW84』を観て思い浮かべた絵画作品を紹介してこの記事を終えたいと思います。

 

武装した女神アテナ(ミネルヴァ)が悪徳を撃退する様子を描いた一枚

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アンドレア・マンテーニャ『徳の勝利』1497年~1504年 

ルーヴル美術館所蔵

女神アテナ(ミネルヴァ)が、キューピッドや女神ディアナを味方につけながら、肉体的な愛に固執する「不徳」やミミズクの顔の天使が象徴する「欺瞞」、沼に集まる「無知」「貪欲」などを追い払っています。(空に浮かぶ3人は、「正義」「勇気」「節制」のアレゴリーとされます。)

雲の上から美徳が見守るなか、悪徳を追い払おうとする女神アテナ(ミネルヴァ)は、まるでゴールドアーマーを纏ったダイアナのようです。

この絵は謎だらけで、解明されていない点が多いのですが、解釈することが好きな自分としては、考える余白を持たせてくれているようで気に入っています。

 

 

前回に引き続き、今回も美術を絡めながらヒーロー映画を振り返ってみましたが、

絵画も神話もコミックも、同じモチーフを、色んな人が伝えたり/描いていくことで、豊かな歴史を蓄えていく継承の芸術なのだと改めて痛感しました。 

 

 

 <終>

 

長々とまとまりのない文章にお付き合い下さり有難うございました!

今後も気まぐれに気が向けば、記事を上げていこうと思います。